三章 レナだって大切な仲間
※この章には戦闘および人が死ぬ表現が含まれてます苦手な方はご注意を※
おとりになり森の中をどれくらい駆け抜けていただろか、私は疲れ果て足がもつれてしまいその場に転んでしまった。
「……っ」
「ふふ。姫とはいえやはりただの小娘だな。どんなに逃げたところでいずれはこうなることは分かっていた。共も連れず一人で逃げ出したのが運の尽きよ」
「まあ、隊長。殺す前にちょっと遊んでやってもいいんじゃないのか? 聞いたところによると瑠璃王国の姫君は美人らしいじゃないっすか」
「それもそうだな。直ぐに殺してしまうのは惜しいくらいの綺麗な女だ。殺す前にちょっとは良い思いさせてやるか」
男達の話しの意味は分からなかったが顔を見られてしまえば私がアオイちゃんじゃない事がバレてしまう。私は布をきつく握りしめた。
「せっかくの綺麗な顔そんな布で隠しちゃ駄目だぜ……そら」
「!?」
抵抗もむなしく力の違いなのか簡単に布を取られてしまう。
「お、お前は誰だ?」
「隊長。この女が姫なんじゃないんですか」
「貴様さては俺達を誘い出したな!」
男達が驚きと怒りに目つきが染まっている。私は殺されてしまうことを覚悟して目を瞑った。
「ぐあ」
「え?」
その時空を切る何かの音と共に隊長と呼ばれた男が悲鳴をあげたため驚いて目を開く。
男の左腕には一本の矢が刺さっていて驚く兵士達が背後へと振り返る。
「レナ、大丈夫?」
「アオイちゃん……どうして」
そこにはアオイちゃんが弓矢を構えた状態で立っていて彼女の後ろにはハヤトさん達の姿もあった。
「イカリが教えてくれたの。私の部屋から慌てて駆けて行くレナを見かけたって。何かあると思って直ぐに追いかけてきたのよ」
「密偵されていると知っていて泳がせていたのだが……まさか別動隊を率いて里に忍び込んでいたとはな」
「ちっ。舐めた真似を……姫もろとも反徒どもを殺してしまえ」
彼女が言うと二刀の刀を構えながらキリトさんが言う。
密偵がバレていたことに舌打ちを打った男が命令すると帝国兵が武器を構えてアオイちゃん達の方へと突っ込む。
しかし実力はどう見てもアオイちゃん達の方が上であっさりと兵士達は倒される。
「そこまでだ」
「っ」
追い詰められた隊長がしゃがんだまま動けない私の首に剣を突き付けた。
「少しでも動けばこの女の命はないぞ」
「レナ」
「アオイ……動いてはダメです」
にやり顔で私を無理矢理立たせるとそのまま人質にとったまま逃げようとする男。
悲痛な声でアオイちゃんが叫び動こうとするがそれをハヤトさんに止められる。
「でも、レナが」
「ばか、冷静になれよな。下手に動けば相手の思うつぼだぞ」
涙目で訴える彼女へとユキ君が怒鳴り、今にも駆けだそうとする彼女の腕を掴み動きを封じた。
「そのまま動くんじゃないぞ」
「何もできない女人を人質にとるとは……帝国兵のする事か!」
勝ち誇った顔で笑う男にイカリ君が怒る。
「ふん。どんな手を使おうが勝てばいい」
「それが武人のする事とは思えない。帝国兵は腐っている」
不敵に笑う相手に我慢ができなくなった彼が動こうとするのをキリトさんが止めた。
「待てイカリ。下手に動くな」
「しかしキリト殿。このままではレナ殿が」
冷静な判断を下しているとはいえ納得できない様子でイカリ君が抗議の声をあげる。
「はははっ。そうだ動けばこの女の命はないからな。そのまま動くんじゃねえぞ」
(アオイちゃん。皆さん。ごめんなさい)
高笑いして一歩ずつ背後へと動きだす男。首元に刃物を当てられ何もできない私はふがいなくて皆に迷惑をかけていることに心の中で謝罪する。
「ぐぁ?」
「?」
しかしその時刃物を持つ男の右手目掛けて何かが投げつけられた。それに驚き一瞬手が離れたその瞬間に私は誰かに腕を掴まれた気がしてそちらに引っ張られその場に倒れ込む。
「な、なんだ?」
「とにかく今がチャンスです」
突然の出来事にユキ君も驚き目を白黒させていたがハヤトさんがそう言ってアイコンタクトをとる。
「ええ。はっ」
「ぐぅ……お、おのれぇ……」
アオイちゃんも理解していて頷くと弓矢を構えて相手の急所を狙う。男はもがき苦しみながら最期の言葉を呟き倒れる。
「……」
「レナ、大丈夫?」
ぼうぜんと地面に膝をついた状態のままの私の側へと駆け寄るとアオイちゃんが心配そうな顔で尋ねた。
「大丈夫。でも何が起こったのか分からなくて」
「私もよく分からないわ」
理解できなくて混乱している私の言葉に彼女も不思議そうな顔で言う。
「これです。これが相手に隙を与えたのでしょう」
「短剣? いったい誰が……」
ハヤトさんが男の側に落ちていた短剣を拾い上げ話す。それを見たユキ君が怪訝そうに呟いた。
「とにかくこの短剣のおかげでレナを助けられたんだから、それを投げてくれた人に感謝しないとね」
「そうですね。レナ怖かったでしょう。もう大丈夫ですよ」
アオイちゃんの言葉に同意したハヤトさんが私へと微笑み優しい言葉をかけてくれる。
「私……アオイちゃん達はとっくに里を抜け出して別の地に逃げていったって思っていたのに。どうして私を追いかけてきたんですか?」
「レナを置いて逃げられるわけないじゃない」
「それに帝国側の人間が密偵として忍び込んでいたことはキリトが教えてくれていましたので、このまま放置しておくわけにもいきませんでしたからね」
私の言葉に柔らかく微笑み話すアオイちゃん。ハヤトさんも穏やかな口調でそう語った。
「私のしたことに怒らないのですか? 勝手な事をして、皆さんに迷惑をかけて。足手まといにしかならないのにどうして……」
「レナ殿が帝国側の兵士達を引き付けてくれたおかげで僕達は戦う準備を整える事ができたのです」
「足手まといだと思うならもう勝手なことはするんじゃねえよ。それに、迷惑なんて少なくともアオイは思っちゃいないさ。他の奴等はどうかは知らないけどな。まあ俺は……お前の勇気ある行動は認めてる。だけどもう勝手なことはするんじゃないぞ」
身勝手な行いがアオイちゃん達を困らせて迷惑をかけたというのに。イカリ君もユキ君も穏やかな口調で優しく笑う。
「それにレナだって私達の大切な仲間だもん。仲間を見捨てるなってことできないよ」
「ごめんなさい……」
「……行こう。今ここでこうしている間にも帝国軍の兵士は里へと向かってきているだろうからな」
柔らかく微笑み私を支えながら立たせてくれたアオイちゃんがそう言う。皆さんの気持ちが嬉しくてそして申し訳なくて俯き謝る。
その様子を一人外れて見守っていたキリトさんが言うと私達はこのまま南の地へと向けて旅立った。
「少し良いか?」
「キリトさん……」
隠れ里から大分離れた森の中で休憩をしているとキリトさんがそっと近寄って来る。私は先ほどの事に対して叱られるのだろうと覚悟を決め彼の次の言葉を待つ。
「……正直おれはお前のことを疑っていた。見たこともない衣服をまとい信じがたい話を平気でする。帝国側の密偵の一人かもしれないと思っていた」
「……」
だが彼が口を開いて語り始めたのは私を疑い見張っていたことで驚いて瞬きをした。
「女同士ということで心を許すアオイに接近するお前をずっと見張っていた。そして帝国軍が里に向かってきていると知った時もお前が知らせたのではないかと疑いを持った」
そこまで言うと困ったような顔をして私を見詰めるキリトさん。彼が何を言いたいのかが分からずに私は首を傾げる。
「……だが、アオイのふりをして自らおとりとなり敵の目を欺き、アオイを……いやおれ達を守ろうとしてくれた。そんな君が敵の密偵であるはずがない。あの信じがたい話が事実であるならば、おれも君が元の世界へと戻れるように力を尽くす」
「キリトさん……有り難う御座います」
疑い深いキリトさんの事だからきっと私の信じがたい話や敵ではないかとの疑念を抱くのではないかとは思っていた。でも彼が信頼してくれたことが伝わり私は嬉しくなって心からの感謝の言葉を伝える。
「……それにおれは昔一度だけ君に会ったことがある気がする」
「え?」
「いや、そんなはずはないな。君はこの世界の人ではないのだから。きっとおれの記憶違いだろう」
「……」
困った顔で話された言葉に私は驚く。するとキリトさんがふわりと笑い今の話は忘れてくれといいたげに話す。
私は彼の言葉の意味を考えたが私がキリトさんと出会うはずなんかない。きっと彼が言う通り記憶違いなのだろう。
それから休息を終えた私達は南の地へと向けての旅を再開した。
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