十一章 フレイはお坊ちゃま?2
それから数日後にフレイが来店してきた。
「いらっしゃいませ……あ、フレイさん」
「この前は騒がせちゃってごめんね。今日はお詫びを言いに来たんだ」
お店へと顔を出すとそこにはフレイが立っていてアイリスは慌てて駆け寄る。
困ったような顔で謝る彼に彼女はにこりと笑った。
「迷惑だなんて、私もお客様も迷惑だなんて思てませんので、気になさらないでください。それより、フレイさんの方こそ大丈夫だったのですか?」
「小鳥さんが心配することは何も無いよ。でも……有り難う。結局あの後、親父が怒る一方で全然落ち着いて話を聞いてくれなくてね。仕方ないから後日お互い冷静に話し合おうってことになったんだ。だから、この問題はもう直ぐ片付くと思う」
アイリスの言葉に彼が微笑み経緯を話してくれる。
「でも、フレイさんが侯爵様の息子さんだったなんで驚きました」
「隠していたわけではないんだけれど、貴族の出だと分かればいろいろとめんどくさい事になりかねないからね。聞かれない限りは話さないようにしていたんだ。小鳥さんを驚かせてしまったようで申し訳ない。……ぼくのこと嫌いになった?」
彼女の言葉に再び困ったような顔で笑うとそう尋ねた。
「嫌いになるだなんて、そんな事ないですよ。むしろフレイさんの事が少しだけわかったような気がして嬉しいです」
(今まではただのナンパ男だと思っていたなんて絶対に言えない)
アイリスは笑顔で答えながら内心で呟き苦笑する。
「……有り難う。小鳥さんは優しいんだね。これ、迷惑をかけたお詫び。イクトさんと二人で食べて」
「え、でも……迷惑なんて本当に思っていないので」
フレイがそう言うとクッキーの缶箱を差し出す。彼女は戸惑い断ろうとすると彼が再び口を開いた。
「小鳥さん達がそう思っていたとしても、ぼくはそれじゃ気持ちが落ち着かないから。それにこういうことはちゃんとしておきたいんだ」
「分かりました。わざわざ有り難う御座います」
フレイの気持ちを汲み取りアイリスは頷くと差し出されたクッキーの缶箱を受け取った。
「……親父との問題が片付いたらまたお店に顔を出すね」
「あの、フレイさん。まさかこの町を出て行くんですか?」
元気のない様子の彼へと彼女は不安になり尋ねる。
「……小鳥さんにそんな顔されたらちょっと考えちゃうかな」
「えっ」
じっと見つめていたフレイがふんわりと笑うとそう呟く。その言葉が聞こえなくてアイリスは首を傾げた。
「いや、まだ決めていないんだ。親父との関係がどうなるかもわからないからね」
「そうですか……」
「大丈夫。問題が解決したらまっさきに小鳥さんに教えるから。そんな顔しないで」
彼の言葉に彼女は俯く。その様子に優しく笑いかけながらフレイが言った。
「それじゃあ、またね」
「はい」
彼が言うと店から出て行く。その後ろ姿をアイリスは心配そうな目で見送る。
それから彼がお店に訪れることはなく、話し合いがどうなったのかをアイリスが知る事になるのは一ヶ月後であった。