十三章 精霊様の頼み事1
マクモが来た翌日。一人のお客がお店へと来店する。
「失礼……」
「いらっしゃいませ。仕立て屋アイリスへようこそ」
そのお客は落ち着いた雰囲気の大人な男性で、店内へと入って来ると興味深げに辺りを見回す。
作業部屋にいたアイリスが店先に戻って来るとお客も気付き彼女へと近寄る。
「失礼、お嬢さん。知り合いからとてもいい店だと、このお店を紹介されてね。それで服を仕立ててもらいたいと思い来たのだが、貴女がこのお店の店長であっているか?」
「はい。私が店長のアイリスです。本日はどのような御用でしょうか?」
男性の言葉にアイリスは尋ねた。
「俺はクラウス・スミス・ティール。……一週間後に開催される収穫祭で着る衣装を仕立ててもらいたいと思うのだが、頼めるか?」
「もしかして……秋の精霊さん役の方ですか」
クラウスと名乗った男性の言葉に彼女は質問する。
「ああそうだが。いつもは王国の仕立て屋に頼むのだが、病気で寝込んでいるらしく頼めなくてな。その時レイヤやマクモからここのお店がとても良いと紹介してもらったんだ」
(この人が秋の精霊さん……なのかな? でも、普通の人間にしか見えないし、きっと秋祭りで呼ばれて来た人だよね)
男性の言葉を聞きながらアイリスは内心で思った事を呟くとにこりと笑い口を開いた。
「はい。では、さっそく寸法を測らせてもらいますね」
「ああ、よろしく頼む」
彼女は言うと試着室へと案内する。男性も付いてくるとさっそく寸法を測りそれをメモ用紙に書き留めた。
「では、急いで作ってほしいとは言わないが、一週間後の収穫祭に間に合うように作ってもらいたい」
「はい、お任せください」
クラウスが言うとアイリスは笑顔で返事をする。
男性が出て行った後アイリスは作業部屋へと戻り今受けている依頼の品を作ってからクラウスから頼まれた衣装のデザインを考えた。
「ただいま。アイリス……頑張っているようだね」
「あ、イクトさんお帰りなさい。国王様から呼び出された理由は何だったんですか?」
外に出かけていたイクトが戻って来ると作業部屋で頑張る彼女に声をかける。
アイリスも作業の手を止めると駆け寄り尋ねた。
「うん。ちょっとしたお願いだよ。王国御用達の仕立て屋を変えたいと考えているんだけれど、それで家のお店が候補者だとかで、考えてもらえないかとの話だった」
「え? 王国御用達の専属仕立て人にならないかってお話だったんですか」
彼の話に驚いて目を見開く。
「そうだね。だけど、返事はまだしていない。この店の店長はアイリスだからね。君の気持ちを聞いてからと待ってもらっているんだ」
「王国御用達の仕立て屋に……私がなるってことですか?」
イクトの話を聞いてアイリスがさらに目を丸くして尋ねる。
「すぐに答えが出るものではないと思う。だから、ゆっくり考えて」
「……」
戸惑っている様子の彼女へと彼が優しく声をかけた。それにアイリスは考え込むように黙り込む。
「それより、その衣装は?」
「あ、これは今日来たお客様からの依頼で、収穫祭で着る衣装を作ってほしいって。まだ、途中かけなんですけれど」
彼女の様子に話を変えるようにイクトが作業台の上にある衣装を見て尋ねた。それにアイリスは説明する。
「それじゃあ、頑張って仕上げてしまわないとね。店番は俺に任せて、アイリスは今受けている依頼の品の制作を頑張って」
「はい」
彼の言葉に彼女は笑顔で答えると作業へと戻る。
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