十六章 王国御用達の専属仕立て人!?2
「……」
「アイリス、大丈夫?」
呆然と立ち尽くすアイリスへとイクトがそっと声をかける。
「なんだか呆気に取られてしまって、でも、これ作らないとですね」
「それで、どんな材料で作るんだい。すぐに用意するよ」
彼女がにこりと笑い言うと彼が微笑み答える。
「えっと、モケモケの布に木綿の布とミルケストの糸、竜の涙と賢人の宝石にメトモの実とヨウキ鳥の羽、それから胎動の心という物と精霊の雫です」
紙に書かれた品を読み上げたアイリスの言葉に常連客やイクトの顔が険しくなる。
「竜の涙だって!?」
そこにマルセンが声をあげた。
「え?」
「それはこの国から西に行った洞窟に生息するドラゴンを倒さないと手に入らない幻の品だ」
「最初から手に入らないことが分かっていて、あのイルミーナってやつこの品を選んだんだ!」
驚く彼女へとジャスティンが説明する。マルセンが険しい顔でそう言い放った。
「それだけではなくてよ。モケモケの布も木綿の布もミルケストの糸も市場では出回りませんの。とても貴重な品だから王族や貴族の所にやって来る行商人が稀に持ってくるくらいの品ですわよ」
「えぇ!?」
マーガレットの言葉にアイリスはさらに驚く。
「賢人の宝石に胎動の心……これらはとても希少価値の高い宝石です。そんなもの王族でも手に入るかどうかといった物なのに」
「それにメトモの実は染料として使うものなのですが、この季節では手に入りません」
ジョルジュが言うとシュテリーナも説明する。
「ヨウキ鳥の羽モ私の故郷よりはるか南に行った国に生息する鳥だって聞いてます。それモ春の時期にしかいない渡り鳥だト。でも、幻の鳥と言われるほどデめったに遭遇できないそうデす。つまり、今の時期だとイルかどうかも分からない、探し出すだけでも大変なんでス」
「精霊の雫は水の精霊が作り出した宝石だって聞いたことがある。つまり、精霊界にしか存在しない代物なんだ。国王様でもそれを手に入れるのに交渉だけでも数百年はかかると言われている。とてもじゃないけど普通に手に入れられるとは思えない」
ミュゥリアムが言うとイクトも困ったといった顔で話す。
「そ、そんな……」
「はじめからアイリスに作らせないつもりで、こんな無理な依頼をしてくるなんて……許せませんわ」
絶句するアイリスの様子にマーガレットが激怒して言う。