ライゼン通りのお針子さん~新米店長奮闘記~11
「イクトさん。今日お見えになったお客様は踊り子さんで、お祭りで披露する踊りで着る衣装を仕立てて欲しいと頼まれたんです」
「それで、どんな衣装を作るのかはもう考えてあるのかな」
部屋へ入ってきたイクトへと彼女が笑顔で声をかける。
「はい。こんな感じの衣装を作ろうと思ってるんですが……どうでしょうか?」
「うん。いいんじゃないかな。それじゃ早速型紙をあてて行こう」
「はい」
デザイン画を見せながら説明するアイリスへと彼が微笑み了承する。そして二人は衣装作りへと入っていった。
「このムームーの絹布にミルクルルの糸そしてポポタンカの羽でアクセサリーを作って……うん。この素材なら」
「それじゃあ縫い合わせは手伝うから、形を仕上げていこう」
「はい」
沢山ある素材の中から衣装に使う物を探すと裁断を始める。切り取った布をイクトが縫い合わせていく。
「これはまた……見た事のないデザインの衣装になったな」
「はい。お客様の踊りは人を魅了して虜にしてしまうそんな素敵な踊りだったので、この衣装ならよりお客様の踊りを引き立ててくれるんじゃないかと思いまして」
出来上がったのはへそ出しの衣装。上は肌が露出するくらい短いのに、スカートの丈は長く体にヒットする形の作りとなっていて、胸元にはギャザーがかかり金や銀のアクセサリーがついている。スカートにはポポタンカの羽で作った飾りがついていて、振動に合わせてゆらゆらと揺れる仕組みになっている。
「それじゃあ次は王様の衣装を作ろうか。隊長から王様の服のサイズを聞いてきたからその通りに裁断すればいいよ」
「はい。王様はどんな方なんですか」
メモ用紙を作業台の上に置きながらイクトが言う。それに目を通しながら彼女は尋ねた。
「そうだね、とってもお優しい方だとお伺いしている。それから厳格な方だとも。参考になるかどうかわからないが隊長から去年王様がきていた衣装を預かってきている」
「はい。これは……う~ん。なんだかごてごてしすぎていませんか」
彼が預かってきた衣装を見せるとアイリスは、堅苦しくそして派手な装飾がいたる所についた、いかにも重そうな服に思ったことを口に出す。
「派手な物が好きな方だと聞いている。それでこんなに装飾が多い作りとなっているんだろう」
「この衣装じゃ王様の良さが引き立っていないように感じます」
イクトの言葉に彼女は素直な感想を述べる。
「それじゃあアイリスならどんな服を仕立ててあげるのかな」
「私なら……」
優しい口調で聞かれた言葉にアイリスはデザインを紙に書く。
「もっと落ち着いていて清楚感と厳かな雰囲気を漂わせながらも王様としての威厳を感じさせるこんな感じの服を作ります。そしてもっと動きやすく見ていて重く感じる服ではなく軽い感じで見る人を安心させてあげられるような。そう、こんな感じでしょうか」
「うん。俺もその衣装の方が好きかな。それじゃあ王様に似合う服を作っていこう」
「はい」
デッサン画を見せながら説明する彼女へとイクトも同意して再び衣装づくりを開始した。
「できた……」
「お疲れ様。本当に夕方までに終わらせる事ができたね」
完成した衣装を見て達成感に喜ぶアイリス。イクトも労うように声をかける。
「イクトさんが手伝ってくださったおかげです」
「うん。それじゃあ俺はこの衣装を隊長に届けに行ってくる。アイリスは踊り子のお客様にその衣装を渡しておいてね」
「はい」
彼女の言葉に小さく返事をすると、出来上がった衣装を袋に詰めながらそう説明する。アイリスも衣装を持ち店内へと戻った。
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