ライゼン通りのお針子さん~新米店長奮闘記14
「できた……イクトさん遅いな」
「ただいま。ちょっとマルセンと話をしていたら遅くなってしまった。俺がいない間問題はなかったかな」
閉店の準備をしながら出ていたまま戻ってこないイクトの事を考える。
その時駆け足で戻ってきた彼が扉を開けて入って来ると笑顔でそう尋ねた。
「お帰りなさい。今日はお客さんがたくさんですごく大変でしたが、何とか私一人でこなせました。それから服も完成しましたよ」
「お疲れ様。本当にアイリスは呑み込みが早いな。もう一人でお店を切り盛りしても問題ないくらいに」
イクトの姿を見た途端安心して笑顔になったアイリスがそう報告すると彼も嬉しそうに微笑み話す。
「そんな、私なんてまだまだイクトさんがいないと失敗ばかりで。今日だって服を縫うことに集中しすぎてお客様がお見えになったのに気づかなくて、お客様をお待たせしてしまったりしてしまったんです」
「アイリス。それでもここに来た当初と比べたら失敗の数はだいぶ減ったと思わないかな。それにお客様は待たされて嫌な顔をしていたかい」
「いいえ。忙しいのにごめんなさいって謝られてしまいました」
「お客様はアイリスが一人で頑張っていることをちゃんと理解している。だから怒ったりなんかしなかったんじゃないかな」
「イクトさん……イクトさんは最近どこに行ってるんですか」
イクトと話していて不安を感じた彼女は暗い顔になりそう問いかける。
「……今度王国で開催される仕立て屋の大会があるのは知っているかな」
「はい。お祭りのチラシがうちにも届いてました」
「その大会の審査員をしてくれないかと実行委員会の人に頼まれてね。それでそのための会議に参加しているんだ」
「そうだったんですか。よかった。私イクトさんがどこか遠くに行ってしまうんじゃないかってちょっと心配だったんです」
彼の言葉に心底安心して笑顔になるとそう言ってイクトを見やった。
「ははっ。仮契約の君を残してどこか遠くになんか行ったりしないよ」
「そうですよね。私ったらそんなことも忘れてしまうなんて……でもイクトさんがいなくなってしまうんじゃないかって不安だったんです」
「君に不安な思いをさせてしまってごめんね。でも大丈夫。俺は先代が残したこのお店を出て行ったりなんかしないよ」
「はい」
心配と不安で押しつぶされそうだったアイリスの心は彼の言葉で落ち着きを取り戻す。
「これからもいろいろとご指導ください」
「うん。君を一人前のお針子に育て上げることが俺の務めだからね」
「はい」
彼女の言葉にイクトも笑顔で頷く。アイリスも力強く返事をした。