第十一章 喜一の正体2

「アッシュ君は俺を守る側近兵の一人なんだ。だから彼の実力は俺が保証するぜ」

「そう言えば、アッシュさんのあまりの勢いで忘れかけてましたが、喜一さんいえ喜一様が殿さまだったなんて……」

喜一の言葉にそう言えば先ほど重大な事を聞かされたんだった、といった顔で神子が呟く。

「神子さん。そんないきなりよそよそしい態度になるのやめてくれよな。皆もだ。そうなるだろうと思ったから身分を隠して遊び人って名乗ったんだ。なあ、頼むよ。この旅をしている間だけでもただの遊び人の喜一って事で接してくれないか?」

「……分かりました。喜一さんがそうして欲しいのであれば。ですが、殿様……なんですよね」

困った顔で彼が言うと彼女も理解してはいるのだがでも、と言った感じで考え込む。

「この旅に同行する仲間なんだから、俺が誰だろうと今まで通り仲間として見てくれないかな」

「そ、そうですよ。皆さんは私がこんな容姿をしていようとも私を受け入れてくれた。なら喜一さんの事も殿様ではなくて私達の知っている遊び人の喜一さんって事で受け入れてあげるほうのが、喜一さんもきっと嬉しいと思います」

喜一の頼みに最初に声をあげたのは信乃だった。彼女は自分を受け入れてくれたように彼のことも殿様ではなく一人の仲間として受け入れてあげようよと力説する。

「そうだな。なんか喜一の顔見てると殿さまって感じしないし……」

「ははっ、そうだろう。どこからどう見ても遊び人ぽいだろう」

伸介も彼の顔を見ながらそう言うと、喜一がにやりと笑い胸を張って言い切った。

「貴方は殿様ではなく遊び人に成り下がるおつもりですか……」

「まあ、隼人そう言うなって。お前も今まで通り俺の事は遊び人の喜一として接してくれよな」

「……それがあなたの願いならば」

溜息交じりに隼人が言うと彼がまあまあと言った感じに話す。その言葉に彼が仕方ないといった感じで了承した。

こうして喜一が殿様であるという爆弾発言により彼の意外な正体がわかるのと共に、レインの兄であるアシュベルが旅に同行することとなり神子一行の旅は続く。

しばらく歩いていると巨大な体の悪鬼が行く手を阻むように現れ神子達の間に緊張が走る。

「ここは俺に任せてくれ。いくぞ……はぁっ」

「ぐるるるる……」

「アッシュ兄張り切ってるわね」

先頭にいるアシュベルが武器を構えると敵に突っ込む。攻撃を受けた悪鬼は一瞬よろけた。その様子にレインがおかしそうに小さく笑う。

「稲妻よ、集え……はっ」

「そんじゃ私も……光の女神の名は伊達じゃないってとこ、たまには見せてあげるわ。天駆ける光よ……我が前の敵を討て」

彼が右手を突き出すと呪文のような言葉を紡ぐ。すると彼の右手上空に稲妻が現れるとそれが弾け敵を貫く。

その様子に妹も触発されたかのようににやりと笑い言うと、切っ先を天空へと向けてそっと唱える。すると切っ先に白く渦巻く光が集まり雷が悪鬼に降りそそいだ。

「レイ。久々にあれをやるか」

「いいわよ。アッシュ兄。久々にお見舞いしてやりましょ」

アイコンタクトをとるアシュベルへとレインが頷きにこりと笑う。すると二人は隣同士に並ぶと切っ先を敵へと向ける。

「……赤き雷よ」

「白き雷よ……」

兄が呟くと妹も囁くように言う。集中する二人の切っ先には赤色と白色の稲光が渦を巻き一つの塊となっていった。

「「ここに集いて我が前の敵を討て!」」

「ぎぁああっ」

そうして二人同時に声を出すと、共に切っ先から放たれた稲妻が悪鬼を貫き消える。それにより相手はかき消された。

「どうやら今回はぼく達の出番はないみたいだね」

「流石は兄妹なだけあって息の合った連携技だな」

弥三郎がふうと溜息を吐き言うと、亜人も刀を納めながら二人の事を讃嘆する。

「アッシュ兄。また腕をあげたわね」

「それはこっちの台詞さ。レイまた腕をあげたな」

にやりと笑いレインが言うとアシュベルも不敵に笑いお互い拳をかち合わせて勝利のガッツポーズをとった。

「だから言っただろう。アッシュ君は強いって。神子さんこんな頼もしい奴が仲間になったんだ。邪神との戦いだって絶対大丈夫だ」

「はい。何だかそんな気がしてきました。皆となら必ず邪神を倒せると……そう思えるんです」

その様子を見詰めながら喜一が言うと神子が答えて大きく頷き微笑む。仲間がいる心強さが神子の不安な気持ちを静め、彼等と一緒ならきっと大丈夫だと、確信もなくそう思えるようになるのであった。

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