一章 女神様からの頼み事2
「……できた!」
夕闇が迫る作業部屋でアイリスは作業していた手を止めて満足そうに微笑む。
「お疲れ様」
「イクトさん見て下さい。自信作です」
「うん、とっても素敵なドレスだね」
イクトが労うと紅茶をそっと差し出す。彼女は完成したばかりのドレスを彼へと見せる。
白を基調としたドレスに裾の方はイエローグリーンに染まっていて蔓草の模様の先に虹色花の飾りがちりばめられていた。
トルソーに着せられた衣装を見てイクトはとても良い仕上がりだと褒める。
「お客様……喜んで下さるかしら」
「大丈夫。アイリスが自信作だというのなら、きっと、お客様も満足して下さるよ」
「イクトさん……」
不安がる彼女へと彼が優しく言い聞かせる。アイリスはいつもこの優しい言葉に救われると思いながら微笑む。
それから数日後に女性が再びお店へと訪れた。
「こんにちは~」
「いらっしゃいませ。あ、貴女が女神様ですね」
女性の言葉に店頭に立っていたイクトが気付き声をかける。
「はい。この間頼んでいたドレス、そろそろ出来上がっているでしょうか~?」
「少々お待ちください。……アイリス」
「はい。……あ、こちらになります」
女性の言葉に彼が作業部屋にいるアイリスを呼ぶ。それに返事をしながら店先へとやってきた彼女はお客の顔を見て慌てて品物を棚から出す。
「こちらになります」
「早速試着してみていいかしら~?」
「はい、是非着てみてください」
アイリスがドレスを差し出すと女性がそう言う。それに返事をすると試着室へと案内した。
「どう、でしょうか?」
「まぁ……まぁ、まぁ、まぁ~。なんて素敵なドレスなのかしら。こんなに体にぴったりなドレス今まで着たことがありません。それにとっても肌触りがよくって気に入りました~」
アイリスが緊張気味に声をかけると試着室のカーテンの向こう側から嬉しそうな女性の声が聞こえてくる。
「今すぐにお見せしたいんですが、それは春祭り当日までの楽しみに取っておきましょう」
(私も見て見たかったな……)
着替えて出てきた女性の言葉に彼女も試着した姿が見れなくて残念そうに内心で呟く。
「ふふっ。貴女もパレードで私がこのドレスを着た姿見に来てくださいね」
「はい、イクトさんと二人で必ず見に行きます」
まるでアイリスの心の声が分かっているかのように女性がそう話す。それに彼女は笑顔で答えた。
「まぁ、ふふっ。……私はレイヤです。良かったら覚えておいてくださいね~」
レイヤと名乗った女性が言うとお会計をして店から出て行った。
「本当に、アイリスが言った通り本物の女神様だったね」
「イクトさん。この世界には本当に女神様や精霊さんがいるんですね」
イクトの言葉に彼女は思った事を伝える。
「うん、そうだね。俺も本当にそういう存在に会ったのは初めてだけど、もしかしたらこれからも人間のお客様だけじゃなく神様や精霊さんとかが来て下さるかもしれないね」
彼がそう言うとアイリスもそうかもしれないと少し思った。
この世界には本当に神や精霊が存在する。この町にも確かにその存在はあるのだと知った春の日の一時だった。