四章 雨の日のお客様2
「そうだ、ずぶ濡れの女の子といえば、私も今日ずぶ濡れになった女の子のお客様から依頼されたんです」
「そうだったんだね」
彼が戻って来るとココアで一息つきながら今日出会ったお客様の事を語る。
「はい。とても大切なドレスを仕立て直してほしいとの依頼でした」
「その顔はもうでき上ってるって顔だね」
アイリスの言葉に彼が微笑み尋ねるように言う。
「はい。今日マルセンさんがくれた素材と同じもので作られていたので、それで今日はこの雨で客足も少ないので暇な時間に依頼の品を作ったんです」
「そうか、アイリス大分時間の使い方が上手くなってきたね」
彼女が答えるとイクトが嬉しそうに笑いながら話す。
「最初は覚えなきゃって気持ちで一杯だったのですが、今はずいぶん余裕ができるようになって、落ち着いて考えることができるようになりました。イクトさんが色々と教えて下さったおかげです」
「アイリスにいろいろやらせすぎたとは思っているよ。だが、店長としてしっかり実戦をつみ、経験したからこそ今はこうしてお店の事がやれるようになったんだ。俺も昔は先代からいろいろとやらされてね。そのおかげでたいていのものは一年でやれるまでに覚えた。アイリスは呑み込みが早いから、だから自分で考えて動けるまでに達したんだと思うよ」
アイリスの言葉を聞いた彼がカップを置くと落ち着いた声で話す。
「イクトさんみたいに何でもこなせるまでになるにはまだまだ時間がかかります。ですから、これからもよろしくお願いしますね」
「うん。アイリスが立派な仕立て屋の主として自信がつくまでは、俺がちゃんと側で指導していくから、だから不安に思うことは何もないんだよ」
彼女の言葉を聞きながらその顔が不安に歪んだことに気付きイクトが優しく言い聞かす。
「私、イクトさんとずっと仕事がしたいです。だから私が一人前の仕立て屋アイリスの店長となった後もずっと、ずっとここで仕事をしてくれますよね?」
「アイリス……言っただろう。こんなに頼りない君を一人置いて俺はどこかへ行ったりなんかしないって。だから、泣かないで」
アイリスの気持ちをしっかりと理解している彼が優しくそうなだめると彼女を安心させるように微笑む。
彼女は泣いていたことに気付き慌ててその涙を拭うとはにかんだ顔でイクトへと答えた。
「こんなに泣き虫じゃあ、お客様にも心配させてしまいますよね。私、頑張らなきゃ」
「泣き虫でも構わないよ。それに、泣かせてしまったのは俺だから、だからごめんね」
「いいえ。私こそ不安になってイクトさんに迷惑かけて……ごめんなさい」
小さく笑いながら話すアイリスへと彼が申し訳なさそうな顔で謝る。イクトへと首を振って答えると彼女もごめんと言った。
「これからもよろしくね。アイリス」
「こちらこそ、頼りない店長ですがよろしくお願いします」
二人ににこりと笑い合うとココアを飲みゆったりとした午後の一時を過ごした。