第三章 遊び人との出会い2
そうして一行がやってきたのは港町。ここでは漁業が盛んのため各地から人が訪れ賑わいを見せていた。
「凄くにぎやかな町ですね。私海初めてみました」
「交易が盛んにおこなわれているので賑わいを見せているのでしょう」
華やいだ町の様子に興味津々の神子へと文彦が微笑み答える。
「海なんか興奮するようなもんでもないさ。ただの大きな湖みたいなものだからな」
「湖ってこの前見たあの大きな水たまりの事ですよね? 海も湖みたいな感じなのですか」
伸介がおかしそうに笑うとそう話す。その言葉に山越えする時に見た大きな湖の事を思い浮かべながら神子が尋ねる。
「伸介の話はまともな答えになってないから、真に受けてはならない。実際の湖と海とでは意味が違ってきます」
「勉強ができる奴等とおれ達庶民を一緒にすんなよ。そんなもん塩水か水かの違いなだけで、大きな湖も海も似たようなもんだろ」
溜息交じりに隼人が訂正すると彼が不機嫌そうに言い返した。
「湖は淡水で海は海水。川の水は淡水か軟水。それか炭酸水に分かれていて、一般的に飲み水として飲めるけど、海水は塩分を多く含んでいるため飲み水としては飲めない。つまり湖と海とでは大きく異なっていて――」
「もういい。頭痛くなってきた……」
その様子に弥三郎が湖と海との違いについてを説明しだすが伸介が頭を抱えてそうぼやく。
「弥三郎さんはいろんなことに詳しいんですね」
「領家の跡取り息子として小さいころから先生をつけられて勉強の毎日だったからね。おかげである程度の知識は覚えてるんだ」
感心する神子へと照れ臭そうに笑いながら彼が答えた。
そんなやりとりをしながら宿屋へと向けて歩いていると前方から着物を着崩し、キセルを加えた顔立ちの整った男が歩いてくる。
「おっと……んん?」
「な、何でしょうか」
そのまますれ違っていくのかと思ったが、男が立ち止まり神子の顔をまじまじと見てきて、彼女はたじろぎながら尋ねた。
「あんたが神子さん? ふ~ん……思っていたよりかわいいじゃん。なんなら俺と遊ばない?」
「え?」
満面の笑顔で言われた言葉に彼女は目を瞬き驚く。
「あんたいきなり何言ってるんだ」
「昼間っから女人を誘うとはなんと破廉恥な」
怒りに身を震わせながら伸介が叫ぶと、文彦も頬を赤らめそう言った。
「貴様神子様から離れろ! でなければ今すぐ斬り伏せてやる」
「亜人いきなり斬りかかっちゃだめだよ」
今にも斬りかからん勢いの亜人を抑え込み弥三郎が諭すように声をかける。
「貴様……見たところ遊び人の様だが、神子様に対していきなり無礼でではないか」
「おっと、これは失礼。この町には博打をしに来てたんだが……まさか今世間を騒がせている神子さんにお会いできるなんて思わなくてね。しかも噂以上にかわいこちゃんでつい声をかけちまった。俺の名は喜一ってんだ。見ての通りの自由気ままな気楽な遊び人さ。ねえ、ねえ。神子さん達は悪しき存在を倒すための旅をしてるんだろ。そんな面白そうな事あんたらだけでやるなんてずるいぜ。俺も一緒についていきたい」
隼人の言葉ににこりと笑い反省の色などみじんも感じない態度でそう話してきた。
「さっきから黙って聞いてれば……貴様の様な下劣な輩を神子様の側に置いておくとでも思うのか。神子様と弥三郎様の手前。先ほどの無礼は目をつぶってやるからさっさと目の前から消え失せろ」
「奇遇だな。俺もこんな奴仲間に入れる気はない。ただでさえ面倒な奴等が一緒にいるってのに、これ以上問題起こしそうな奴を増やしたくはないからな」
亜人が苛立ちで低くなった声でそう告げると伸介も同感だといった感じで言う。
「こんな遊び人の言葉など聞くことはありません。さっさと宿屋へと向かいましょう」
「え、は、はい……」
亜人の言葉に神子は戸惑いながらも返事をすると一行は歩き出す。
「ねー、ねー。神子さんいいだろ? こう見えても俺も戦えるんだ。あんたの身を守るくらいどうってことないさ。ってことでよろしく」
「だから、貴様を仲間に入れる気はみじんもない」
「勝手についてくんな。さっさと目の前から消えろ」
歩き出した彼女等の横について歩きながらにこやかな笑顔で頼むと勝手に仲間入りする喜一。そんな彼へと亜人と伸介が睨み付けながら怒鳴る。
「このまま勝手についてきてしまいそうな勢いですね」
「放っておけばそのうち諦めてくれるんじゃない」
「う~ん……」
文彦の言葉に弥三郎が溜息交じりに答える。怒鳴りつける二人に勝手についてくる男。騒ぎの中心になっているせいか町行く人々がちらちらとこちらを見てくる。その様子に神子は困りどうしたものかと考えあぐねて溜息を零した。
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