ライゼン通りのお針子さん~新米店長奮闘記 番外編
火事騒動により捕まえた犯人。それは【人でなき者】と一部の関係者から呼ばれる存在。
ジャスティンとマルセンは神妙な面持ちで捕らえた者の尋問へと向かう。
「なあ、あいつは話が通用するのか?」
「人間の言葉を発しているし問題はないだろう。だが暴れたりした場合の事も考えて万全の準備を整えておいた方が良いだろう」
マルセンが静かな声で前を歩くジャスティンに言うとそれに彼も答える。
彼等は人間ではない。この前の火事騒動の様に火を使われればこちらはやけどを負うだけではすまない。
だからこそ万全の準備を整えて尋問に臨まねばこちらが怪我を負う可能性があるのだ。
「国王陛下も奴をあまり刺激するなとおおせだ。マルセン今回はいつも以上に冷静にな」
「頭に血が上ったって相手が【人ならざる者】なら、下手な言動はしないさ。何かあってこの街に危険が及ぶそれだけは阻止しなくてはならないからな」
ジャスティンの言葉に彼はそう答える。二人が恐れるものそれは【人ならざる者】等によるこの街への襲撃。
相手の仲間を捕らえていることが知られればもしかしたらこの街に危険が及ぶかもしれない。それだけは避けなければならない。だからこそ捕らえた奴が仲間に知らせないように昼夜を問わず厳重に監視しているのだ。
「それでは、いくぞ」
「ああ……」
尋問室の前までくるとジャスティンがこわばった顔で言う。それにマルセンも頷き二人は部屋の中へと入っていった。
「あ、いらっしゃい。丁度退屈してたんだ。ねえ、ねえ。何か面白い話聞かせてよ」
「「……」」
緊迫した空気を壊すかのように中にいた【人ならざる者】が陽気な声で話しかけてくる。
人間の言葉を話しているがその耳は三角型にとがっており、髪の色は炎の様に燃えるような赤。瞳の色は金色で犬歯は人間に比べると長い。そしてなにより体中には光り輝く痣のような模様が刻まれていた。
「お前は放火事件の犯人として捕らえられているのだぞ。なにの、全く悪気を感じないのか」
「ああ、あれね。う~ん。なんていうのかな。騒ぎが大きくなったことは謝るよ。オレだって誰かに迷惑かけるつもりじゃなかったんだ。たださ、そのあの時は腹が減りすぎてバーサーク状態になっててさ」
気を取り直したジャスティンが静かな声で言うと【彼】は相変わらず明るい声で答える。
「それであっちこっちで火事騒動を起こしてこの街の人達を不安にさせたのか」
「普段はそんな事ないんだけど、ここ最近食事をちゃんととれなくて力が暴走気味でね。でも人死に出てないから許してよ。これからはちゃんと気を付けておくからさ」
マルセンが眉を跳ね上げ問いかけた言葉に【彼】も困ったような表情で答えると笑顔で許せと言ってきた。
「質問を変えよう。お前は明らかに人間ではないようだが、一体何者なのだ。もし我々に危害を及ぼす存在であるならば、このまま放置することはできない」
「お兄さんそんな怖い顔しないでよ。オレ達だって人間に危害を加えようとは思わないよ。むしろ人間大好きなんだよね。オレ達は太古の森の中に住む精霊の一族で、オレは炎の精霊。人間の住む里にきたのはほんとに千年ぶりでさ、何もかもが変わってて驚いちゃったよ」
ジャスティンが今はそのことは置いておくと言った感じでまず【彼】が何者なのかを知る為質問する。それに相手は精霊だと答え二人は疑いさらに厳しい表情になった。
「……精霊?本当に精霊なのか。精霊は神に仕える者だと教えられてきたが、そのような存在が火事騒動を起こすとは思えんな」
「そっちのお兄さんも落ち着いてよ。久々に太古の森から出て人里に降りてきたから昔と何もかも違ってたって言ったでしょ。オレ達精霊は普段は大気に満ちた気を食べて生活してるんだ。だけど人間の里ではその気が足りなくて、何かものを食べないといけないんだけど、お金を持っていなかったせいで食い物にありつけず……そうしてお腹がすいて力を制御する能力が落ち暴走しちゃったんだよ」
マルセンが言った言葉に待ってと言った感じで説明する。それを聞いてもなお二人は半信半疑で精霊だと名乗る相手を見た。
「本当に精霊だという証拠はあるのか」
「う~ん。お兄さんたち固いね。そんなんじゃ疲れちゃうよ。そうだな、精霊だって証拠を見せれば信じてもらえるんなら……ちょっと派手に行くよ」
「「!?」」
ジャスティンの言葉にまだ信じてもらえていないことに困った顔をした【彼】が言うと椅子から立ち上がり意識を集中し始める。すると床一面に魔法陣が現れ二人は驚く。
「我は炎をつかさどる精霊マクモ=フレイン。我が力ここに示せ」
「「!?」」
【彼】が何やら呪文のような言葉を述べると部屋を照らすためのロウソクの火が反応するかのように大きく揺らぎ燃え盛った。
その信じられない状況に二人は目を見開き呆気にとられる。
「どう、これでオレが精霊だって認めてくれたかな?」
「……確かにそれは精霊様のお力。お前が精霊であることは証明された。だが、それと火事騒動を起こしたこととは話が別だ。何件もの家が焼かれ人々は困り、住む家を失くした者もいる」
「例えあんたが精霊だとしても、それについての罪を償ってもらわねばならない」
にこりと笑い言った精霊の言葉にジャスティンが厳しい顔に戻ると話す。マルセンもそうだと言いたげに口を開いた。
「そっか……それならさ、オレ、この街で働くよ。そんでついでにこの街を加護する。それで許してくんない?」
「この街を加護するってずいぶんと簡単に言うが、そんなことできるのかよ」
精霊の言葉にマルセンが眉をしかめて尋ねる。
「だってオレ上位精霊だぜ。この街一個護るくらいどうってことないよ。火に関する事なら何でも任せてくれていいぜ。もしもさ火事が起こってもその火を消し去ることだってできる」
「火事騒動を起こした奴が言う言葉ではないが……精霊がこの街を加護してくれるというのはありがたい話ではある。これは私達の一任では決められない。国王陛下に話をして決める。それまでお前の身柄はこのままここに据え置く」
それに胸を張り自信満々な笑みを浮かべて話す相手にジャスティンが呆れた顔で言うと次に厳しい口調でそう告げた。
「え~。ここ狭くて暗くて退屈なんだけどな」
「うるさい。牢獄に入れられるよりはましだろうが。お前火の精霊なんだろ。なら暗いところにいたって照らせばいいだろうが」
唇を尖らせ抗議する精霊へとマルセンが怒ったような口調で言う。
「ああ!その手があったか」
「「……」」
それにそうだったと言わんばかりに話す相手に二人は「こいつバカじゃないよな?」と呆れながら見つめる。
そうして尋問は終わり国王陛下へと報告を済ませると王も驚いたが相手が精霊ならば丁重にお迎えせねば罰が当たると判断し、彼をこの国でお祀りすることとなった。
ジャスティンから話を聞いたジョンとシュテナも驚いたが、精霊様がこの街にやってきたのには何か意味があるのではと思い丁重にお迎えすることになる。
そうして精霊マクモ=フレインはコーディル王国を守護する火の精霊となり宮殿に迎えられ人間の里で暮らすこととなった。
人々には精霊様をお祀りすることになったとだけ伝えられ、彼の存在は一部の係わった者だけの秘密として国王命令が下される。
マクモはこれにより人の姿となり王宮で生活することとなったのだが、退屈が嫌いな彼はよく城を抜け出して町に繰り出し遊んでいるようだが、その話はまた別の機会にお話ししよう。