ライゼン通りのお針子さん番外編 錬金術師とイクト
ライゼン通りにある小さなアトリエ。そこにはコーディル王国一の腕を持つ錬金術師の女性が工房を営んでいた。そのお店へと一人のお客が訪れる。
「いらっしゃい。イクト君……貴方が来る時はいつも難しい問題を抱えている時よね。……それで、今日はどうしたの?」
「ソフィー。君にまた依頼を頼みたいと思ってね。今日中にこのデッサン画に描かれているアクセサリーの台座を作ってもらいたいんだ。しかも伝説級の品でね」
どことなくアイリスに似て真面目で頑張り屋さんな雰囲気を漂わす女性の言葉にイクトは頼み込む。
「またそれは難しい依頼ね。たった半日で伝説級の品物を作れだなんって……ハンスを通してじゃなくて、私に直接頼むってことはよっぽどの事情があるのね」
「お願いできるかな」
ソフィーがふぅと溜息を吐き出す。そんな彼女へと彼は柔らかい微笑みを浮かべた顔のまま尋ねる。
「イクト君。何があったか知らないけれど、そこまで必死になるのはこのデッサン画を描いた子のためかしら?」
「まぁ、そうだね」
ソフィーの問いかけにイクトは軽く頷き答えた。
「分かったわ。そこでお茶でも飲んで待っていて。すぐに作るから」
彼女は言うと調合室へと入っていく。
「思えばイクト君との付き合いも長いものね。私がこの国に来てからだからもう十九年になるかしら」
ふと過去のことを思い起こすとあの頃のことが懐かしいと言わんばかりに微笑む。
「さて、それじゃあ調合しますか。イクト君の大切な子を助けるために」
ソフィーが言うとフラスコを手に取り調合を開始する。
「お待たせ。できたわよ」
「有難う。それで……」
「お代はいいは。いつも贔屓にしてもらっているからね。持って行って」
調合室から出てきた彼女から品を受け取ると代金を支払おうとするイクト。
そんな彼へとゆるりと首を振って微笑む。
「私が手伝えるのはここまで。後はイクト君がそれを完成させるのよ。頑張ってね。貴方の大切なお針をさんを助けるために」
「うん」
彼女の言葉に彼が微笑み力強く頷く。
「……さて、ポルトが帰ってくるまでに今受けている依頼をすべて終わらせないとね」
イクトが店から出ていくとソフィーがそう言ってまた調合室へと戻っていった。
ライゼン通りの一角にある小さなアトリエ。そこには錬金術師の女性がお店を経営しており、彼女の調合した品は市場にいるハンスという商人の店でしか販売されていない。その素材は仕立て屋アイリスが買い取り今日も誰かの着る服やアクセサリー等になりこの町の人達の笑顔につながっている。