第七章 星読みの男と引かれ合う魂3
そして皆が出ると喜一の案内で書庫へと向かう。途中誰ともすれ違うことなく無事に目的地まで到着する。
「この中に俺の知り合いがいるはずだ」
「……そろそろお見えになる頃かと思いまして、お待ちしておりましたよ。神子様よくいらしてくださいました」
彼が言いながら書庫の扉を開けた。すると中からとたんに男性の声が聞こえてきて皆そちらへと視線を向ける。
「貴方が星読みの一族の末裔の方ですか」
「はい。わたしは斗真(とうま)と申します。神子様達がこちらにいらしゃるのをずっとお待ち申し上げておりました」
「斗真早速で悪いが邪神についてお前が知っていることを神子さんに教えてやってくれないか」
神子の言葉に軽く微笑み答える斗真と名乗った男に喜一がそう声をかけた。
「はい。皆さんが倒すべき相手は邪神であるという事はもうご存知ですよね。……邪神は100年前に目を覚ますと共に破魔矢を放ち、いけにえとなる乙女を自分の所へと向かわせ、その少女の体を乗っ取り力をつけてきました。ですが今回はいつもとは違います」
「どういうことだ?」
彼の話を聞いて疑問に思った伸介が声をあげる。
「今までは邪神の依り代とのなる娘を探して破魔矢を放ってきました。ですが今回は最初から神子様。貴女を狙って破魔矢を放ったのです」
「私を狙ってとはどういうことですか」
斗真の説明に余計に分からなくなったといった顔で神子が尋ねた。
「神子様はかつてこの国を邪神の脅威から救った瑠璃王国の姫の生まれ変わりなのです。つまりアオイ様の魂を宿してるという事です」
「え?」
彼の話に神子は驚き目を見開く。他の者達もその事実に驚愕した。
「そして今回貴方達がこの旅に同行したのもまた運命であります」
「私達が旅に同行したことが運命とはいったいどういう意味だ」
しかし続いて斗真が話した言葉に隼人が訝しげな顔で問いかける。
「貴方達もまた魂を宿して生まれ変わってきた英雄達なのです。伸介さん貴方はなんとなく神子様の住む村へとやって着ました。しかし神子様を見た時にこの村に移住することを決めた。それがなぜかは貴方には分からなかったかもしれませんが、貴方の魂は英雄の一人ユキ様なのです。ですから神子様と会った時に初めて会った感じがしなくて放っておけず村に住み着いたのです。次に隼人さん貴方がこの旅に同行することになったのは殿のご命令だから従ったに過ぎないと思っていたようですが、しかし今は違いますよね。なんとなく神子様達を放ってはおけないと思っているそれがなぜなのか、それは貴方の魂がアオイ様の旦那様であられるハヤト様の魂を宿しているからなのです」
「「!?」」
彼が二人を見やり話した言葉に伸介と隼人は驚き目を見開く。
「次に文彦さん。貴方は神子様の体調管理をするために派遣されただけだと思っていたかもしれませんが、実はそれも違います。貴方は英雄の一人武の戦士イカリ様の魂を宿して生まれ変わってきたのです。ですから初めて会ったはずなのに皆さんとすぐに打ち解けれたのは魂に刻まれたイカリ様の記憶が神子様達の魂と波長が合ったからに他ならないのです」
「えっ……」
斗真が視線を文彦へと向けると語る。彼の言葉に驚きと戸惑いで瞳を大きく揺らした。
「次に弥三郎さんと亜人さん。貴方方は神子様に助けられたから恩返しのためについて来たと思っているようですが、それも違います。弥三郎さんは英雄の一人アレクシル様の魂を宿していて、また亜人さんも英雄の一人キリト様の魂を宿しております。ですから神子様達と会った時に引かれ合ったのです」
「「!?」」
斗真の言葉に今度は弥三郎と亜人が驚いて目を瞬いた。
「そして最後に喜一、さん。貴方は旅芸人の一座の団長であられたキイチ様の魂を宿して生まれ変わってきました。ですから神子様と出会われた時に惹かれたのでしょう。そうして彼女のために何かしたいと強く思うようになったのです」
「!?」
彼の言葉にまさか自分も含まれているとは思っていなかった喜一が驚いて呆けた顔をする。
皆まさか自分が英雄達の生まれ変わりであったなんてと半信半疑の様子で暫く黙り込む。
「成る程。つまり私達が巡り会ったのも運命って言いたいわけね」
「はい、その通りです。レイン様」
ふっと笑いレインが言った言葉に斗真が答えた。
「でもさ、いくら星読みで未来が見通せるからって、なんでそんなことまで分かっちゃうのかしら?」
「それはわたしもレイン様や信乃様の様にかつてこの国を救った英雄達の末裔の一人だからですよ。わたしの先祖は星読みの一族です。それだけでもうお分かりになられるかと思ったのですがね」
彼女の鋭い追及に彼が微笑み話す。しかし皆解らないのかそれともあえてわかっていて口を開かないのか誰も何も言葉を発しない。それを最初から解っていたかのように斗真がまた口を開いた。
「わたしの先祖はかつてこの瑠璃王国の姫アオイ様に仕えていた家臣の一人トウヤ様です。そして私の祖先であられるトウヤ様から代々受け継がれた秘伝の書があります。そこには瑠璃王国の姫様達の事や歴史書に載らない事実が事細かに記載されておりました。そしてトウヤ様はいつか邪神が復活することも分かっていたようです。ですからその時が来たら運命に導かれるようにして集う者達へ助言するようにと、代々我が一族の間で受け継がれてきたのです」
「成る程、それで私達のこともその秘蔵の書に載っていたってわけね」
「ご納得いただけましたかな」
説明を受けて納得したレインが頷くと彼がそう言って微笑む。
「それじゃあ、邪神を倒す方法も斗真は知ってるの」
「邪神の居所なら分かります。そして邪神がその場から動けないことも」
「動けないってどうしてですか」
弥三郎の質問に斗真が答えると文彦が不思議そうに尋ねる。
「邪神は祠が壊れた事により復活しました。しかし厳重に封印が施されていてその地から離れることができないのです。ですから破魔矢を放ちいけにえとなる乙女を自分の下へと向かわせてきたのです。そして今回も瑠璃王国の姫の魂が生まれ変わってきたことを知り姫の魂を消し去る為に神子様の下へと破魔矢を放ったのです。何も知らずに邪神の下へと向かっていたらそのまま殺されてしまうところでしたね」
「邪神がこっちにこないのは分かった。だがそいつを倒すためには邪神がいるという祠へ向かわないといけないのだろう。だとすると奴を倒す方法がないと神子様を危険な目にあわしてしまうことになる」
彼の話を聞いて亜人が神子が危険な目に合うのではないかと不安を抱いた。
「そのご心配はいりませんよ。魂を継承せし者達と信託の神子様と白銀の聖女様と光の女神様と腕輪を継承せし者。その全てが集った時に異空間より来たりし賢者が現れ神子様達を導くと秘伝の書には書かれておりましたので」
「賢者ってあの伝説の賢者の事か? そんなやつが実在するのか」
愚問だとでも言いたげに笑い答えた斗真へと隼人が驚き尋ねる。
「ええ、瑠璃王国の姫様達を導き国造りを手伝い、およそ100年にわたりこの地を守り続けたとされる賢者様は、この世界が再び危機に陥った時にこの地へと現れるだろうと予言の書にも書かれておりますので実在はしていると思いますよ。その証拠がかつて瑠璃王国があったとされる遺跡の近くにある森の奥に建っている時の神殿です。時の神殿があるという事は伝説の賢者様が実在したなによりの証ですよ」
彼の話を聞いて本当に伝説の賢者がいるのだとしたらそれはとても心強いが、だがただの伝説や書物の中に登場するだけの人物が果たして本当に実在すのだろうか。そもそも昔に生きていた人がいくら賢者と言えど今も生きているとは限らない。などと神子達の間で考えが廻る。
そんな中紅葉と蒼いだけが賢者の存在を信じているかのような顔をして黙して立っていた。
「さて、神子様方がこれからなすべきことはもうお分かりでしょう。腕輪を継承せし者と出会い、そして賢者様から知恵を借りて邪神を討ち滅ぼすのです。こちらの地図をお渡しいたします。この地図に邪神の居所を書き記しておきましたので、これをお役立てくださいませ」
斗真が言うと地図を神子へと渡す。そうしてもう自分の役目は終わりだとばかりの顔で黙り込んだ。
彼の口から聞かされた自分達が聖女伝説の幕開けを作った瑠璃王国の人達の生まれ変わりだという新たな事実に、一同は驚きと戸惑いが治まらぬ心中を抑えてこの場を後にする。
そうして隠し通路から外へと出るとその日は宿へと泊るが、誰も斗真から聞いた話については口に出さないままそれぞれがそれぞれに悩み考える夜を過ごしたのだった。
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