七章 夏祭りの準備2
「え、あの、マルセンさん?」
「相変わらず元気のいいにぃちゃんだな。……それじゃあ、オレも帰るわ。一週間後に服取りに来るからな」
その背へ向けて声をかけるが彼が立ち止まることはなく扉は閉ざされる。
男性が独り言を呟いた後アイリスへと向き直りにかりと笑った。
「はい。お任せください」
「またな!」
彼女は笑顔で答えるとそれを見届けた男性が言って店から出て行った。
「アイリスなんだか賑やかだったけど、団体のお客様だったのかな?」
「あ、イクトさん。えっと、男の方が来店されて、その後でマルセンさんが来て。初めてのお客様とは知り合いだったらしく驚いてました。でも。マルセンさんの様子が少しおかしくて……私マルセンさんが怒鳴っている姿なんて初めてみました」
「マルセンが怒鳴るなんて、よっぽどのことがないと怒らない彼が? 一体そのお客様との間に何があったんだろうね」
イクトが様子を見にお店へと戻って来るとアイリスは先ほど見たマルセンの様子について説明する。彼もその話を聞いていささか信じられないといった感じに呟く。
「アイリス、そのメモは?」
「あ、先ほど来たお客様の寸法を書いたメモです。夏祭りに着ていく服を仕立ててもらいたいとのことでした」
彼女の手に持っているメモに気付いたイクトが尋ねる。それにアイリスは男性から頼まれた依頼について話した。
「そうか、それでさっそく仕立てようと思っているのかな」
「はい。今受けている依頼はこれだけですから」
彼の言葉に彼女はすぐに返事をする。
「皆夏祭りの準備で忙しいからね。でも、もう少ししたら夏祭りに着ていく服を仕立てて欲しいって依頼が増えてくるよ」
「そうですね。依頼が増えても対応できるように頑張ります」
イクトが笑って答えるとアイリスも頷き力拳を作り意気込む。
「うん。それじゃあ店番は任せて、アイリスはお客様の服を仕立てておいで」
「はい」
その様子に目を細めて優しく笑う。アイリスも返事をすると作業部屋へと向かっていった。
「お客様に似合うとびっきりの逸品。夏祭りに着ていくのにぴったりな服……か」
作業部屋へとやって来たアイリスはメモを机の上へと置くと考え込む。
「あのお客様太陽のように明るくて、まさに夏の海が似合うそんな感じのイメージだったな。……まぁ、この国から海は遠いから海をイメージした服はちょっと違うかもしれないけれど」
腕を組みうんうんと唸る。夏の海が似合う人だった。でもこの国に海はない。この国の夏祭りに似合い、男性のイメージに合う服を考えていたアイリスの頭の中に一つの答えが導き出される。
「そうだ。この国の夏祭りのイメージとお客様のイメージ、二つをかけ合わせてみたらどうかな。この前カヨコさんの依頼を受けた時みたいに。別々のものを融合させて……よし」
アイリスは服のイメージを掴むと早速素材を選びいつものように仕立てていく。
そうして服が出来上がると達成感に微笑む。きっとこれならばあの男性も喜ぶことだろうとアイリスは思った。