十八章 やっぱり仕立て屋アイリスが一番3
そしてついにイルミーナの指定した一週間後になる。
「さて、私の依頼した品を見せてもらいましょうか」
「はい。……これがイルミーナさんの依頼の品です」
イルミーナが手伝いと弟子を引き連れて来店してくるとマーガレット達もじっとその様子を見守る。
「たしかに私が指定した品で作られているわね……どうせできやしないと思っていたのに、意外だわ」
モケモケの布と金のミルケストの糸で縫い上げたドレスにメトモの実で染め上げた木綿の布で作ったショール。竜の涙と精霊の雫で作られたネックレスにヨウキ鳥の羽と賢人の宝石で作られたヘアーアクセ、そして胎動の心で作ったブローチ。
それを見たイルミーナが想定外だといった感じに呟く。
「どう、でしょうか」
「……ふん。分かったわ、私の負けよ。私の指定した品で伝説級の品を本当に作り上げたんですからね」
「あ、先生、待って下さい」
不安そうに尋ねるアイリスへと彼女がそれだけ言い放ち立ち去る。レイチェルが慌ててその背を追いかけた。
「あ、あの……これを貴女に」
「え?」
一人だけ残ったロバートがお金の入った封筒を差し出す。
「師匠はああ言ってますが、貴女のこと認めているんです。あの無理難題な依頼をこなせるだけの実力の持ち主ならば王家が認めたのも納得できるって。それで、依頼の品が作れたならばその代金を支払うようにって言われていたんです」
「そうだったんですか」
彼の説明を聞いてアイリスは納得する。
「あの……それで、貴女は本当に王国御用達仕立て屋になるのでしょうか?」
「私色々と考えたんですが、やっぱり私はこの仕立て屋アイリスが一番好きなんです。だから王国御用達仕立て屋にはなれません。だって、この町の皆のために服を作り続けていきたいので」
ロバートの言葉に彼女はにっこりと笑いそう言い切った。
「アイリス……」
その言葉を聞いたイクトが嬉しそうに微笑む。
「そういうことなので、今回は諦めて下さい」
「そうだね。やっぱりアイリスさんは仕立て屋アイリスにいるのが一番ですよね」
「ここに来るという息抜きもできなくなってしまいますし、その方が良いわね」
ジャスティンの言葉にジョルジュとシュテリーナも素直に頷く。
その後国王陛下にも王子と王女の口添え付きで丁重にお断りをしたそうだ。
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