十五章 新しい始まりと出発

 邪神との戦いが終わりようやく私達は穏やかな時を過ごせるようになった。

そしてあの時は切羽詰まった状況でちゃんと聞けなかったカイトさん達がお父さん達に頼まれて私を守ってくれていたことについて聞いてみることになったのだけど……。

「そもそもレナがこっちにくることになった原因は11年前から始まっていたのよね? どうして11年前からなの」

「それから、私ずっと考えていたのですが、キリトさんとアレク君。それにシエルさんとジャスティスさんが会ったのは私ではなくおそらくルナさんなんですよね」

アオイちゃんの言葉に私も続けて尋ねるように話す。

「そもそも事の始まりはあの迷いの森の奥地に封印されていた邪神が目覚めた事が切っ掛けです」

「アレク様は覚えておいででしょうか? 11年前に貴方達は倭国へと遊びにいらしていた。その頃はまだ【海の向こうの島国】と俺達は呼んでいたその国へとルシフェル様は友好を深めたいと願い幼かった貴方を連れて海を渡り瑠璃王国へとやってきたのです」

「覚えているよ。その時貴族階級の者達も何組か招待して一緒にこの倭国へとやってきた。君達はその中の一組だった」

マサヒロさんの言葉にタカヒコさんがアレク君へと尋ねる。それに彼も覚えていると言って話す。

「そう。その時は本当に友好関係を深めて交易国になればと考えていたんだ。だけど……あまり一人でどこかへと行ってはいけないと言われていたにもかかわらず貴方は一人迷いの森の中へと入っていってしまわれた」

「それに気づいたのはルナだった。あの子は俺達に「王子様が危ない」って言って森の中へと入っていったんだ。その時はあそこが危険な場所だなんて思っていなかったから、しばらく森の中を探検したら二人で帰って来るだろうと思った……それがいけなかったんだ」

サトルさんの言葉にカイトさんが過去を思い出し悲しげな顔をする。

「ぼくは一人で森の中へと入っていった。その時ぼくを追いかけてきた女の子がいた。それがルナだ。ここは危険な場所だからすぐに戻るようにと彼女は言ったけど、その時のぼくはわがままを言ってどんどん森の中へと入っていってしまった」

「王子様がいない事に気付いた私達は慌てて森の中へと入り王子様を探したんだ」

当時を思い出し後悔に瞳を揺らしながらアレク君が言うとシエルさんも話す。

「そしてぼくは森の奥で邪神が封印されているなんて知らずにその結界を壊しそいつを目覚めさせてしまった……」

「そうだ、思い出した。あの頃おれ達は異国の使者に会って宴をするという王について行った。そして俺は子どもが森の中へと入っていったのを見てそこが迷いの森とは知らずにその地に足を踏み入れたのだ」

アレク君が話していると今度はキリトさんが口を開いた。しかしその顔はとても悲しみと後悔に歪んでいた。

「邪神が封印されている祠からどす黒い光が放たれぼくは動けなくなった。そんなぼくの手を引っぱり結界の外へとルナが押し出したんだ」

「そこでオレとシエルが駆け付けた。明らかに何かがおかしくて、すぐに王子様を抱きかかえた。その時彼女は……「私は大丈夫だから。王子様を連れていって下さい。そしてできるだけ早くこの地を早く離れる様に。でないと皆さんが危ないから」と言ったんだ」

「レナと同じ様にルナも人の事ばかり心配するそんな子だった。だから自分がここに残って話をしてみるから。だからその間に王子様を連れていってくれと。……彼女は笑っていた」

アレク君が邪神と出会った時のことを思い出し苦痛と後悔の入り交ざった表情で拳を固く握りしめて語る。それにジャスティスさんとシエルさんも悲しげな顔をして話した。

「彼等がいなくなってからだ。おれが森の奥地から感じた邪悪な力に導かれるように森の奥へと進んでいったのは。しかしあともう少しでたどり着けるそう思った時ルナがおれに声をかけてきた。「お兄さん。貴方はここに着てはいけない人です。貴方は生きてそして希望をつないでください」とな。そして彼女はおれをあの小さな手で押し出そうとした。まるでこれ以上進んではいけないといいたげに。あの時彼女を連れて逃げていればよかったのかもしれない。気が付くとおれは森の外に突っ立っていた。どうやって外に出たのか分からないまま先ほどの事は夢ではなかったのかと思うほどにな」

「ルナは昔から不思議な子だった。まるでそこに誰かがいるかのようになにかとお話ししたり、暗がりを妙に怖がったりしたりとね。だからきっとあの子は邪神ともお話しして何とかしようとしたんだわ」

「だけど、結局……あの子が行方不明になって一週間後に迷いの森の前で変死体で発見された。無残にも切り刻まれた小さな体を俺は抱きしめ涙を流す事しかできなかった。あの子の言葉を理解できなかった。そのせいで俺は――いや、俺達は最愛の娘を失ってしまったんだ」

キリトさんが当時を思い出したのか後悔と自分自身への怒りに身を震わせながら話す。サキさんが涙ぐみながら語るとカイトさんも邪神への怒りに瞳を鋭く細めて言う。

「そして、邪神は自由の身となりルシフェル様に憑りつき瑠璃王国攻めを開始した。それと同時に時空の扉を通り別世界で幸せに暮らしていたレナ達家族の命を奪ったんだ」

「レナが将来自分にとって邪魔な存在になるからだから今のうちから危険の目を摘もうとしたのよ。だけどそれはレナの家族達が命がけで阻止した。おかげでレナは無事に生きながらえたの」

マコトさんが怒りで組んでいる腕の力を込めながら話すと、イヨさんが私の顔を見て説明する。

「だけど、そのせいでレナはとても孤独で寂しい思いを味わうことになってしまった。すぐにでも迎えに行きたかったんだけどそんなことしてレナが邪神に狙われたら危険だと思ってアオイさんがこの国へと戻って来る時が来るまで待っていたんだ」

「その時こそレナもワタシ達も皆が幸せになれる時だってレナのご家族に言われたから」

ケイトさんが言うとケイコちゃんも話す。

「だけど、一つ聞かせてもらってもいいですか。どの予言書にもレナさんの事は書かれていなかった。そしてこのおれの目をもってしてもその未来を見る事ができなかった。それなのに何故貴方達はそれを知る事ができたのだ」

「それは俺達の夢に出てきたレナのご家族のお力のおかげです。彼等が邪神の事と未来を教えてくれたのです。そのおかげで俺達は全てを知る事ができました。そして貴女を守るよう頼まれた後天へと昇っていきました」

トウヤさんが一つだけ疑問があると言って話した言葉にマサヒロさんが答える。

「だけど多分。いつもレナの側で見守っていたと思う。レナが危ない時に助けてくれていたんじゃないかな」

「そう言えば……あの時」

サトルさんの言葉に私は帝国兵に人質に捕られた時誰かに手をひかれたような気がしたのを思い出す。もしかしたらあれはお父さん達の誰かが私の手を引っぱったのではないか……と。

そして邪神に狙われたあの時体中に優しくて暖かい気持ちが舞い込んできた。それはもしかしたらお父様達が側で私を守ってくれていたのでは……。

「レナ殿。大丈夫ですか?」

「へ?」

イカリ君が驚きとどうしたものかと言った感じで私に声をかける。意味が解らなくて私は首を傾げた。

「ふふ。その涙は大切な人の前でだけ流しなさいな」

「あっ……す、すみません。お父さん達が守ってくれていたんだって思ったら自然に涙がでてきて」

「いきなり泣き出すからびっくりしたぁ~。でも、その涙はここにいるオレ達がちゃんと受け止めてやるよ」

優しく笑いアゲハさんが言った言葉でようやく泣いていることに気付き慌てて袖で拭う。それにキイチさんが満面の笑みを浮かべて言った。

「レナは家族に愛されていたんだな。……まぁ、その箱入り娘っぷりからそうじゃないかとは思っていたけどね」

「ユキ君……ユキ君だっておじいさんやおばあさんに愛されてきたんじゃないですか。それにアオイちゃんやハヤトさんにも愛されているじゃないですか」

箱入り娘発言はよく意味が分からなかったが、自分は愛されてなかったといいたげな態度に私はそう言って聞かせる。

「それに私もユキ君の事愛してますよ」

「それ、聞きようによってはライクじゃなくてラブに聞こえるぞ」

私の言葉にユキ君が呆れた顔で言う。

「え?」

「ははっ。……友達として愛してくれてるってのはちゃんとわかってるから大丈夫だ」

今の発言に何か問題があったのだろうかと思いながら呟くと彼が笑って答える。

「兎に角。話を聞いて瑠璃王国攻めが邪神が目覚めたせいだからってのは分かったわ。それにルナちゃんとレナの家族が邪神によって殺されたことも。そしてその時から私達が巡り会う運命にあったって事も理解した。でももうそんなのどうでもいいの。これから如何するかが大事よね。全てが終わった今ならレナとユキを元の世界へと戻す方法も見つかるかもしれないもの」

「そのことなら我が異界の扉の場所を知っている。真に帰りたいと願うならばその扉まで案内するが……二人の気持ちはどうなのだ」

アオイちゃんが手を叩くとこのお話しはお仕舞とばかりに言い切る。そこに今まで黙って話を聞いていたルシフェルさんが口を開いた。

「二人の気持ちって……ユキもレナも元の世界に帰れるんならそれが一番いいと思うのに、違うって言いたいんですか」

「我は邪神に体が乗っ取られている間何もできなかったとはいえ、人の本質を見る目は衰えてはおらぬよ」

彼女が怪訝そうに尋ねるとルシフェルさんが目を細めて語る。

「つまりルシフェル様はレナもユキもここで過ごしたことにより気持ちに変化が表れているのではないかとおっしゃっているのです」

「そうなの? 二人は元の世界に帰りたくないって思ってるってこと?」

「「……」」

シェシルさんが言った言葉にアオイちゃんが私とユキ君に尋ねる。私達は考える様に暫く黙り込んでいた。

「俺はアオイがこの国をどんなふうに立て直していくのかを側で見てみたい。それに幼馴染なんだからな。もっと俺を頼ってくれてもいいと思うんだけど」

「へ?」

「国を再建するのにどんだけ力仕事が必要だと思ってるんだよ。一人でも人員は多い方が良いだろうが。だから俺は元の世界に帰る気はない。このままここでお前が造る国を一緒に造り上げていきたい。だから俺は元の世界に帰る気はないし、未練なんかこれっぽちも感じない」

頭をかいて言われた言葉の意味が分からなかったようで彼女が不思議そうにする。それに溜息を吐くと微笑みそう説明するように話す。

「私もここにきてからある人に言われたんです。本当に元の世界に帰りたいのかって……」

「!」

私の言葉にアレク君が目を大きく見開いて私を見る。

「それでずっと考えてました。帰りたいと思えば帰れる道を必死に探しているはず。だけど私はアオイちゃんや皆さんともっと一緒にいたいって思ってました。そして……カイトさん達に会って私の心は決まりました。私このままここで、できる事ならアオイちゃん達の側にいたい。そしてカイトさん達と家族になれたら……私にルナさんの変わりが務まるかは分かりませんが、私を受け入れてくれた優しい皆さんがいるこの世界で生きていきたいです」

「ユキはアオイと共に国を造りたい。そしてレナはここでカイトさん達と家族になり暮らしたいそうですね。俺も貴女の側で武官でも父親代わりでもなくアオイの剣となり盾となりたい。そしてどこまでもついて行きますよ」

私が宣言するように言うと話を聞いていたハヤトさんがにこりと笑い言う。あれ、この言葉って確か……そうだ。ハヤトさんルートのハッピーエンドの時の台詞だ。って、あれ? いつの間にかゲームの記憶が戻ってる。どうしてかは分からないけど前にトウヤさんが知らない方のが私のためになるみたいなことを言っていたっけ。ってことは私がこのままゲームの記憶を持ったまま邪神と戦うことになっていたらこの展開にはならなかったって事で、それにより私は邪神に殺されていたかもしれないってこと? だから一時的にゲームの記憶が無くなっていたのね。でも私はもう知っている。ここはゲームの世界なんかじゃない。だって本当にアオイちゃん達は生きていて、パラレルワールドの私達家族が生きている実際する世界なんだもの。

「おれもアオイの側で君が造り上げる国を支えていきたいと思う」

「僕もお許しいただけるのであれば、これから先もずっと姫様のお側で護衛兵として仕えてまいりたいです」

キリトさんも微笑み言うとイカリ君が力強い口調で答える。

「おれも姫様のお側に仕えることを許していただけるのでしたら、これからは貴女の側でずっと仕えてまいりたいと思います」

「ぼくもアオイと一緒にこの国を再建するのを手伝うよ。邪神に操られていたとはいえ父上のやったことの償いをするのも息子の務めだろうからね」

トウヤさんが誓いをする騎士の様に胸に手を当て頭を下げて言うと、アレク君がアオイちゃんの手を取り彼女の瞳を見詰めて話した。

「オレも姫さんがどんな国を造っていくのか見てみたい。オレ達も姫さんに協力するぜ」

「そうね。アオイちゃんが頑張るって言うんならお姉さんも頑張らなきゃね。団長と一緒に国造りを手伝わせて頂戴」

キイチさんが満面の笑みを浮かべて話すとアゲハさんがウィンクして言う。

「我も尽力しよう。それで我の犯した罪が贖えるとは思えんが……瑠璃王国を再建することがこの国のためになるのならば、我は命ある限りそれに協力する」

「ルシフェル様が貴女に力を貸すというのですから、私達も協力は惜しみませんよ」

ルシフェルさんが申し訳なさそうな顔で言うとシェシルさんも協力すると話す。

「ボクもお姉さんの力になりたいな」

「帝国の技術を使えば瑠璃王国再建も夢ではなくなるだろうからな」

「瑠璃王国の姫よ。オレ達も瑠璃王国再建に尽力する許しを頂けるか」

アイクさんがにこりと笑い言うとシエルさんが微笑み話す。ジャスティスさんが真面目な顔でアオイちゃんへと尋ねた。

ってこれ皆のノーマルルートエンドの台詞だよね。すごい生で聞けちゃった。って、そんなこと思っているとアオイちゃんがにこりと微笑む。

「そんなの勿論だよ。皆が手伝ってくれるならすごく有り難いし心強いよ。皆で瑠璃王国の再建頑張りましょう」

そして口を開くとそう話した。それに私達も笑顔で答える。

「いや、めでたしめでたしだね」

「そうだね。良かったね」

ケイトさんとケイコさんが嬉しそうに何か話し合っていたがなんて言っていたのかまでは聞き取れなかった。でもにこにこと笑い合う様子から楽しい話をしていたのだろうと思い気にするのをやめる。

こうして私達は新しい始まりと瑠璃王国再建へと向けての出発を皆で迎えたのだった。

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