十六章 王国御用達の専属仕立て人!?1
木々も葉を落とし厳しい冬が始まるというある日のことである。
「……ふん。ここが仕立て屋アイリス? 小さくて狭い店だこと」
「まったくです。こんなお店ともいえないような仕立て屋に先生のお仕事が取られそうだなんて思えません」
「で、でも。見た目で判断するのはどうかと……」
店の前できつい目の女性が言った言葉にもう一人の女性が答える。おどおどとした態度の青年が小さな声をあげたが二人はその言葉が聞こえていなかったのか何も言わずお店へと入っていった。仕方ないので彼も後をついていく。
「いらっしゃいませ。仕立て屋アイリスへようこそ」
「ここの店主を出してもらいましょうか」
アイリスが笑顔で出迎えるもきつい目の女性が冷たい声で言う。
「あ、あの。私がここの店主のアイリスです」
「貴女が店主ですって? ふざけないでさっさと店主を出しなさい」
彼女の言葉に女性が激怒すると叫ぶ。その言葉にお店に来ていた常連客達や他のお客がふり返って二人へと注目する。
「彼女が正真正銘。このお店の店主です。……それより、人のお店でいきなり怒鳴るなんて営業妨害ではありませんか? ……マリガレーター工房の主であり王国御用達仕立て屋のレイチェルさん」
「営業妨害はこっちの台詞です。こんな小さな仕立て屋のしかもこんな女の子が店主のお店に王国御用達仕立て人のお仕事を奪われそうだなんてね」
ジョルジュが注意するように声をかけると、女性が腕組みして怒りをあらわに言い放つ。
「!?」
「では、貴女が病気で仕事を休んでいた王国御用達仕立て屋の方なんですね」
驚くアイリスの代わりにイクトが静かな口調で尋ねる。
「ええ、そう。私が王国御用達仕立て屋のイルミーナ・ロディウスです」
「私は先生のお手伝いをしているレイチェル・ジュディウス」
「ぼ、僕は先生の弟子のロバート・ジッチルです」
「それで、家のお店にどのような御用でしょうか」
イルミーナ達が名乗るとイクトが穏やかな口調で尋ねた。
「単刀直入に言うと、ここのお店がうちに変わって王国御用達の仕立て屋になるという噂を耳にしましたの。それで、どれほど立派なお店かと思い来てみたというわけ。……でも、来てみたら町の小さなお店じゃないの。こんなお店に私の仕事が取られるというのは許せないわ」
「それで、文句を言いに来たんですか」
イルミーナの言葉にシュテリーナが険しい表情をして聞く。
「このまま黙っているわけにはまいりません。本当に王国御用達の仕立て屋としての仕事ができるかどうか私自らその力量を確かめてあげます。貴女は私の出した依頼の品を作ればいいわ。でも作れなかったその時は仕立て屋として働くのにふさわしくないということでこのお店はたたんでもらうわよ」
「……分かりました。それで、私は何を作れば宜しいんですか」
彼女の圧力に頷くしか選択肢がなくアイリスは答えると続けて尋ねる。
「この紙に書いてある品で伝説級の服を作ってもらいます。一週間後にその品を見せてもらうわ。それまでにできなかったり、伝説級の品を作れなかった場合は、分かっていてね」
「はい」
イルミーナがいうだけ言うと紙を渡してレイチェル達を連れて帰っていった。