第一章 国から派遣された者達3

 歩き出してから暫く経ち近くの森の中へとやって来ると禍々しい霧をまとった化物が現れる。

「神子様お下がりください」

「こ、これは何ですか?」

「あれが荒魂だ。成仏できずに死んだ者の魂が悪霊となった姿。お前は危ないから俺の後ろにいろ」

それに一番最初に気付いたのは隼人で腰に差している鞘から刀を抜き放ち構える。

見たこともない化物に驚きながら彼女が言うとそれに伸介が答えながら神子の前へと出た。

「ぐるるるっ。うおおおっ!」

「まるで獣みたい……」

「荒魂は人の姿をしているが全く話なんかできやしない。ああやってただ唸るだけだ」

荒魂が威嚇するように叫ぶ様子に神子が呟く。それに伸介が答えると駆け出し相手の懐を刃で切り裂く。

「ぎゃあーっ。うおおおおおあおあ」

「おっと……やっぱり一撃じゃ倒せないか」

荒魂が叫ぶと腕を振り上げ攻撃してくる。それを一歩背後へと退くことで避けると小さな声で独り言を零した。

「お前では倒せない。どけ。こいつは私が倒す」

「お前なんかに譲るかよ。俺一人で十分に倒せる相手さ」

「ふ、二人ともそんなこと言い合ってる場合ではありませんよ。荒魂が来てます」

隼人の言葉に彼が不機嫌そうに答える。まったくチームワークができていない二人の下に荒魂がゆっくりと近寄って来ていてそれに気づいた文彦が慌てて声をあげた。

「あんたには譲らねえ」

「お前には任せられん」

「ぐるるる。うぁああああっ」

刀を構えて押し合いへし合いしている二人の下に相手が大きく体を揺らして突っ込んでくる。

「「煩い」」

「ぎぁあああっ」

お互いをけなしながら振り上げた刀は荒魂の心臓の部分にあった丸い核を貫く。その途端相手は奇怪な悲鳴をあげて掻き消える。

「荒魂を倒せたみたいですね」

「伸介さんも隼人さんもすごいです。あんな化物を倒しちゃうなんて……」

文彦がほっとした顔で言うと神子が二人を讃嘆した。

「俺が倒したんだからな」

「いいや。私の刀の方が先に相手を貫いていた」

伸介の言葉に彼が淡々とした口調でそう答える。

「やんのか……」

「任務遂行以外で時間を割く気はない」

怒りを向ける彼へと隼人が相手をする時間などないといった感じで答えた。

「やっぱり気に入らねえ」

「あんなに息の合った攻撃をしていたのに、お二人は仲良くなったわけではなさそうですね」

「う~ん……」

その言葉に苛立った様子で言い放つ彼と、涼しげな顔をしてさっさと歩き始める隼人の姿を、遠くから見ながら文彦が苦笑する。

それに神子もなんて言えばいいのか分からず空笑いして答えた。

こんな調子で神子の旅は無事に終えることができるのかと一抹の不安を覚えながら、彼女も歩き去ってしまいそうな隼人の後を追いかけて足を動かす。

町へと向かう最中神子を狙うように時折現れる荒魂を倒しながら先へ先へと進んでいく。

そうして一行が町へとたどり着いたのは一週間後のことで、休息する暇もないまま情報収集のため町の人達へと話を聞いて回る。

「結局悪しき存在が何なのかもどこにいるのかも掴めなかったですね」

「この地域では荒魂以外に深刻な状況になってないから、町の人達もあまり真剣には考えていないのだろう」

町の中を歩き回り情報収集していたが何の収穫もなくがっかりした様子で神子が言うと隼人がそれに答える。

「つまり、この辺りにはいないって事ですね。となるとやはり情報を得るためにも一度都の方へと向かった方がよろしいかと思われます」

「それは俺も賛成だな。都ならいろんな人が行きかうから何かしら情報が流れている可能性がある」

文彦の言葉に伸介も同意して頷く。

「それじゃあ都へ向けて東へと旅を続ければいいんですね」

「そうなりますね。神子様ご無理はなさらないように。なにかあったらすぐに僕に声をかけて下さい」

「はい」

話し合いを終えると神子の体調を考え今日はこの町で宿をとり疲れた体を休ませようという事となり、翌朝次の村へと向けて旅を再開することとなった。

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