第十二章 異世界から来た賢者2

「本当にここだけ草や木が生えてる……」

「邪悪な気配は感じないが、これが罠という可能性もありえなくはない。神子様オレ達の側から離れずについてきてください」

驚いて目をぱちくりする神子へと亜人がそう言って彼女の側へと駆け寄り身を守る様について歩く。

しばらく歩いていると前方に巨大な廃屋が見えてきた。

「この建物はとても大きいですね」

「ここはかつて瑠璃王国の姫アオイが友のために作った時の神殿へとつながる小屋だよ」

「誰だ」

巨大な廃屋を眺め神子が呟いた時誰かの声がかけられる。それに警戒し伸介が鋭い声をあげた。

「邪神が目覚めた事によりこの小屋は壊されてしまったから今は使えないけど、でもここが機能しないからといってこの森の奥にある時の神殿に影響はないんだけどね」

「聞こえなかったか、お前は誰だって聞いたんだ」

微かに微笑み語る少年のように見える少女へと彼が再度声をかける。しかし皆いつでも戦えるように武器へと手をかけている状態だ。

「そう警戒しなくていいよ。僕は君達の敵ではない。信託を受けし神子、君に力を貸しに来た」

「え?」

まつ毛すら動かすことなく無表情で淡々とした口調で話した人物の言葉に、神子は不思議そうに声を漏らす。

「僕は刹那。この星よりはるか遠くの地より来た者。……君達の間では賢者と呼ばれている」

「賢者って……あの伝説の賢者のことか?」

「ではあなたが斗真さんが言っていた……」

刹那と名乗った人物の言葉に隼人が驚き目を見開くと、神子も驚愕した顔で尋ねる。

「そう、瑠璃王国の再建後およそ100年に渡りその地を見守り続けた時の神殿に住む精霊。それが僕のことさ。……信託の神子と白銀の聖女と光の女神と腕輪を受け継ぎし者。君達が出会い邪神の下へと向かう時、僕もこの地へと再びやって着た。君達を助けるためにね」

「そういうことでしたか。神子様、賢者様が力を貸してくださるため自らの意志で僕達の前に現れてくれたようですよ。これで邪神の倒し方が分かりますね」

「賢者様にあったら聞きたいと思っていたことがあります。この破魔の矢で射貫くことは本当にできないのでしょうか」

彼女の言葉に優人がふっと微笑み神子を見ると話す。彼女は小さく頷くと以前蒼から聞いたことが本当なのかと問うた。

「その破魔矢はかつて瑠璃王国の姫アオイと腕輪を持ちし麗奈の力によって邪神を射貫いたもの。しかし何百年もの間邪神の力を吸い込んで破魔矢としての能力が失われた。だからその矢でただ射貫くだけでは奴は倒せない」

「それではどうすればよろしいのですか?」

刹那の説明を聞いて困った顔になった神子が更に質問する。

「簡単さ。信託を受けし神子と白銀の聖女と光の女神と腕輪を受け継ぎし者、君達の力を一つにまとめ光り輝く矢を出現させ、それで邪神の心臓を射貫けばいい」

「力を一つにまとめるって……そんな事どうやって」

彼女の言葉に弥三郎が怪訝そうに尋ねた。

「今話したところで君達が理解できるとは思えない。その時が来たらおのずとやれるようになるから、そんな事よりこの森だけが何で奴の影響から免れたか知りたいんでしょ」

「どうしてそれを?」

彼の質問には答えずに刹那がそう話す。その言葉に信乃が驚き目を見開く。

「君達の事を少し前から見ていたからね。で、声をかけるタイミングを見計らっていたのさ。さて、この森がこんなに緑豊かなのはなぜかだけど、この森の反対側にはかつて瑠璃王国があった。その近くの森という事はこの森こそ時の神殿へとつながる場所。時の神殿は精霊の力で守られているためこの辺一帯は見えない結界がはられている。つまり邪神の力の影響を受けない唯一の土地ということさ」

「なるほど、だからここだけ自然豊かだったわけか」

少し前から見ていたと話しこの森の存在が何なのかを教えた彼女の言葉に納得した喜一が頷いた。

「この森の中にいる間は邪神も手出しできないし、奴がこちらの様子を知ることもできやしない。言いたいことは分かるね」

「つまりここでなら邪神に聞かれたくない話しができるって事だね」

にやりと笑い話した刹那へと真人が理解した顔で言う。

「そういうこと。君達は大分疲れているみたいだからね、ここでゆっくり休んで英気を養った方がいい。そして邪神がいる迷いの森の奥地へと向かう」

「この地図に示されている場所を目指すんですね」

彼女の言葉に文彦が言うと刹那は小さく首を横に振る。

「いや、地図に記されている場所にただ向かうだけでは意味がない。あそこは迷いの森だ、一度迷えば一生彷徨い続ける事となる。だから僕の後についてきて、邪神を封印した場所に確実に連れていくから」

「たしかに刹那のいう通りかもしれないな。ただ迷いの森の中を歩いていても邪神の下へは辿り着けないだろう。彷徨っている間に奴が荒魂や悪鬼や魔物を使ってこちらへと攻め込んできたら力尽きてしまう可能性は大いにありえるからな」

彼女の説明を聞いて栄人もそのとおりだなといった顔をして同意した。


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