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レビュー「米津玄師/死神」
今回は、おどろおどろしいタイトルの「死神」について書こうと思う。
(このレビューは、あくまでも個人の感想&妄想です。)
古典落語の「死神」がモチーフになっているらしい。
闇夜。刃物を研ぐように摺る足音が鳴り響く。
怨念まみれのスーツ姿の足元。
死神が忍び寄る。
噺家の男に扮する米津さん。高座名は「幻師」。
着物を着こなしていて、これがまた粋でいなせ。
眼福とはこういうことか。
出囃子はエレキギター、スネアドラム(?)でのんべんだらりとはじまる。
寄席で落語を始める面持ちで歌が始まる。
くだらねえ いつになりゃ終わる?
なんか死にてえ気持ちで ブラブラブラ
気だるい、べらんめえ調ラップみたいな歌い方。
落語を見ている観客もすべて米津さん。
「くだらねえいつになりゃ終わる?」と思っているのは、落語を観る観客と、生ける屍のような男だ。
「アジャラカモクレン テケレッツのパー」
おそらく、人類史上最もカッコいい「アジャラカモクレン テケレッツのパー」。
米津さんが唱える度に、何人かあの世逝き…になっているとかいないとか。
(Yeah)プリーズヘルプミー
ちっとこんがらがって 目が眩んだだけなんだわ
”プリーズヘルプミー”の声は地獄にいる死者やゾンビたちのわめきだろうか。
これの前に出てくる死神の声も、血なまぐさい感じでデスメタルっぽくクセになる。
特に「どうせ俺らの仲間入り」の部分が下がっていく音程と共に、米津さんの超低音ボイスが恐怖感てんこ盛りで地獄に引き摺り降ろされる感じがする。
ああ 火が消える (火が火が消える) 夜明けを待たず
ああ 面白く(おもおもしろく) なるところだったのに
画面は死神と男を真横から映す構図。
死神は、うろたえる男を見下ろしながら捻じ寄る。
男の手には心許ない火が揺れている。
二人を挟み、画面奥の壁、かつ男の手の上にあたる位置には、うすぼんやりと映る「花」の掛け軸がかかっている。生への執着だろう。
「火が」、「おも」を何回も繰り返しているのも面白い。
(あチャチャチャチャチャチャ、も要チェック(笑))
落語をモチーフにするということ
落語(も含めた様々な文化・芸術)や先人への敬意があるのだろう。
教養の幅も広すぎる。
時代と共に、落語も少しずつ変化しながら人々に愛されてきたことを考えると、米津さんがこのような形で落語を元にして現代風にアレンジして歌及び映像を制作するのは大きな意味を持つし何と言っても面白い。
さて、米津版「死神」の結末は…?
この「死神」のオチは、ハッピーエンド・バッドエンド両パターン存在し、かつ、噺家によってアレンジが加えられることも多いようだ。
さて、米津版はどのような展開だったか。
初見のときは「主人公の男は死んだ」と思ったが、よくよく見直すとそのまま生きていると考えることもできる。
あえて明確に描かないことにより、見ている人に託すというか、想像の余地を与えているのかもしれない。
変幻自在な米津さんに脱帽とワクワク
それにしても、米津さんの曲は曲調も雰囲気も多岐にわたり、一人の人が生み出しているとは思えないくらいだ。
同じ曲でも、聞くたびに新鮮な驚きと発見がある。
米津さん…姿形は違えど、あの国民的キャラと同じ位置まで来ているのではないだろうか。
「次はどんな秘密道具を出してくれるのだろう?」と、私たちはまだ見ぬ曲を想像し胸を踊らせている。
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