レビュー「米津玄師/アイネクライネ」
今回は、「アイネクライネ」の感想&妄想を書いていこうと思う。
(※このレビューはあくまでも個人の感想(および妄想含む)です。)
大まかなストーリー
運命の人との出会いと別れ、女性が男性の死を受け止め、悲しみを乗り越えていく物語だと思う。
タイトル「アイネクライネ」の意味
モーツァルトの名曲「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」に由来していると仮定する。これは日本語にすると「小夜曲」という意味だという。ナハトムジークは夜+音楽。
”小さな”を意味する部分だけが残り、夜と音楽がなくなっている。
これは言葉としても欠損している状態、不完全な状態。
この不安定さ、不完全さが女性の気持ち(彼と離ればなれになり心に穴が空いた状態)を表しているとも考えられる。
また、「小さな◯◯」という語を探すと、この歌詞の中では「小さな歪み」しか該当しない。
この曲の中の解釈では「アイネクライネ」=「小さな歪(ひず)み」と捉えてもいいかもしれない。
MV
色の意味
MVの色の流れに注目してほしい。
最初の方の場面では、男性が映るときは左から右に色が流れ、女性が映るときは右から左に流れている。
このことから、
・左から右に流れる色は男性の気持ちの動き
・右から左に流れる色は女性の気持ちの動き
を表していると思われる。
また、最初は色の数が少なく、中盤から後半にかけて色数が増え、色の流れ(男性と女性の気持ち)が混じり合う。そして最後はまたシンプルな色数になる。
色は感情を表し、中盤から終盤付近では暗く激しい色も出てくる。
二人の葛藤や喜怒哀楽がぶつかり合う。
マーク(スペード/ハート)の意味
スペードマークは男性を、ハートマークは女性を表すと考えられる。
(そういえば、今は定かではないがカラオケのデュエット曲でもよく見かけた。)
このマークの位置関係、大きさについて。
大きさは、最初のうちは小さい、最後は大きい。
そしてマークが単体で登場する場面、一緒に登場する場面、一緒に登場するが位置が分断されている場面がある。
これは二人の関係性と成熟度を表しているといえるだろう。
つまり、最初は気持ちが通じていない状態(すれ違い)、通じた状態(両想い)、最後は一緒にはいられないがお互いに人間として成長した、と解釈できる。
すれ違い、チグハグ
顔、胴体、脚というそれぞれパーツごとに場面に登場するチグハグさ。
個人の中でも心情が安定していないことを表しているのだろうか。
また、画面上でもほとんどが男性と女性が別々のカットになっている。
これは二人のすれ違い、物理的な距離だろうか。
アイテムについても、同じアイテムを使用しているのに、チグハグさが表れている。
アイテム①:本
男性は目を覆うように被せる。手は祈るような形。
女性は本を持ちながら広げて、目は閉じている。
・・・初見では、「男性は寝ている」と思ったが、亡くなり棺に入っている姿のようにも見える。
男性のお気に入りだった本を、女性は大事に胸にして思い出しているのかもしれない。
アイテム②:糸電話
男性は上にいる。
女性は下にいる。
・・・普通、糸電話で話すときは位置関係は横。彼が天国にいて、地上にいる女性と通信しようとしているのかもしれない。でもお互いに受話器を耳に当てているので、聞こえない。糸で繋がっているのに、意思の疎通ができていない。
アイテム③:花飾り
男性は目隠しをしている。
女性は目を閉じて、首にかけている。
クマぬいぐるみ/キューピー
頭と左腕、右足はキューピー人形で、リボンと胴体、ちぎれた左足はクマのぬいぐるみ。
おそらく、クマ(=人間ではない)は男性を、キューピー(人間)は女性を表している。一体化しているが、くまの足が欠損している。
これも、男性の死と女性の心の傷を表していると思う。
わからないシーン 紙飛行機との関連?
1:01あたりで、女性が左手の親指と人差し指をくっつけている仕草。
なぜかその左手に向かって紙飛行機が飛んでいる。
0:22で女性が振り向く場面とリンクしていると考えると、後方から飛んできた紙飛行機に気付いたということだろうか。
男性からのメッセージかもしれない。
いずれにしても、それは、”あたしの名前を呼んでくれた”彼からの声が聞こえたからかもしれない。
(紙飛行機は自分で飛ばしたものが彼に届かず、自分に飛んできてしまったのかもしれない。)
クレヨン、シャボン玉、花が象徴するもの
クレヨンは4本から1本ずつ減っていき、0本になる。
・・・4本は四季(死期)の象徴かもしれない。
「惨憺(さんたん)たる夢」の「さん」の響きと合わせるように、クレヨンは3本になり、シャボン玉は3個。
・・・シャボン玉は消える命の象徴。(童謡「シャボン玉」)
後の場面では花のついた枝ごと折れたのか、落下。
・・・花が枝ごと折れ、落ちる=落命。
女性は、地面に落ちた枝に寄り添うようにしゃがみ込み、画面左に寄る。
・・・画面左側=男性と考えると、やはり落ちた花=男性が亡くなった。
が、女性は触れない(触らない)で、泣く。=何もできない、触ることさえできない苦悩?
「あなたの名前を読んでいいかな」の歌詞の後、
3:13あたりで一瞬、色が全くなくなる。=ニュートラルで無となる。
傘をさす
女性は裏返った傘を持ち、上方(傘)を見つめる。
天国にいる男性を思っている?
雨が降ってくるなら、彼からの贈り物だと思い、全部受け止めたいということだろうか。
男性は裏返った傘の先端部分を持ち、下方を見つめる。
地上にいる女性を見ている?
この傘は、かつて二人が一緒にさした傘なのかもしれない。(相合い傘)
歌詞
回想も含まれるシーン。
産まれたときからあなたに会うことが運命だと知っていて会えて嬉しいのだけれど、同時にあなたとのお別れがくることも分かっていてるから悲しい。
仮に、この地球に宿る命の数が決まっていたとして、あなたが亡くなってしまうくらいなら私は石ころにでもなってあなたに席を譲りたい。
それができるなら、出会いもなかったはずで勘違いすることも戸惑うこともない、意味だろうか。
誰にも言えない秘密、嘘=「小さな歪み」だろうか。
「秘密」は、女性が喪失感によって受けた精神的なショック、
「嘘をつく」は、女性が辛いのに、対外的にも自分にも平静を装い繕ってしまうことかもしれない。
1:18あたりで、それまで崩れていた女性が急に上を向き現れる。彼が「あたしの名前を呼んでくれた」からだろう。
あなたが居なくなって悲しみも綻びも消えないけれど、ふとしたときにあなたと一緒にいる気がして、満たされた気持ちになる。
「目の前の全てがぼやけて消えていく」は涙でぼやける、流されて消えるという意味もあるだろう。
天国であなたが彷徨うくらいなら、私が身代わりになってあげたい。
「小さな歪み」と対になっているのは「大げさに不甲斐ない」。
あなたがいなくても大丈夫と自分に嘘(小さな歪み)をつくことで、あなたが一切記憶から消えてしまう気がする。
「大げさに不甲斐ない」は、彼にはそんな嘘も見通されているということだろうか。
”惨憺たる夢”を何度も見るような一人の孤独な夜。
闇の中でも、夢を見ているときもあなたを感じていたい。
そのために何ができるかな、小さな嘘(歪み)などつかず、正直にあなたの名前を呼んでいいかな?
あたしの名前を呼んでくれた
あなたの名前を呼んでいいかな
ラストのここで、二人の意思が疎通するかのようだ。
彼が私の名前を呼んだ。その瞬間に私は呼ぼうとしている。
もう嘘をつくことはない。
彼が亡くなった事実を受け止める。
悲しい現実にも目を逸らさない。
そして、そういう自分も全部肯定して生きていく。
(参考)
他のレビューはこちら。
https://note.com/kuno_q/n/n3ff47b9fee59
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