ベルリン 2021年12月 コロナ第4波
ドイツのコロナ危機 第4波
人口の半分以上がキリスト教徒であるドイツでは、クリスマス前の4週間をアドベント(待降節)と呼ぶ。ベルリンの目抜き通り、クーダムもイルミネーションされ、アドベントの気分を盛り上げている。しかしなぜか例年のようなクリスマスに向けた高揚感が感じられないのは私だけではないと思う。
夏の終わり頃、ドイツではコロナに関してかなり楽観的な希望で溢れていた。誰もがコロナは終焉に向かい、今年はクリスマスを家族で祝うことができるであろうと信じていた。しかしそれは今、深い絶望感に変わろうとしている。10月下旬よりコロナ患者が爆発的に増加し、ついに1日の感染者数は8万人を超えてしまった。私の身近な同僚や友人もコロナに感染し、夏頃には思いもしなかった、憂慮する日々が続いている。
夏休みが終わった頃から、ドイツはコロナ感染を抑えるために3Gという政策を行っている。どこか携帯電話の宣伝に似たキャッチフレーズの3Gとは、Genesene(ゲネーゼネ、感染済み)、Geimpfte(ゲインプフテ、ワクチン接種済み)、そしてGetestete(ゲテステテ、ワクチン非接種者であるが、テストをして陰性である者)の3つを指し、レストランに入るのも、コンサートに行くのも、また公共交通機関の利用にも、この3G証明書の厳しいチェックを受け、違反すれば即罰金である。にもかかわらず再びコロナ患者が増加したのは何故であろうか。一つはドイツのワクチン接種率が68%あたりで頭打ちであったことに原因がある。健康上の理由でワクチンを接種できない人もいるが、自分の意思でワクチンを打たないと決めているQuerdenker(クヴェアデンカー・斜め思想者)も多数存在する。もともとQuerdenkerとは物事を違った視点でとらえる事のできる人を意味し、ポジティブな要素も多かった単語であったはずが、いまではコロナワクチンの接種を拒否する人という意味に変わった。
斜め思想者の中には、まずワクチンの安全性の問題を掲げる人がいる。コロナのパンデミックから1年足らずで開発されたワクチンでは、長期的にみた副作用が不明であるというのがその理由である。あるいは、コロナは製薬会社の利益のために作られたとか、某国の生物兵器だというコロナ陰謀論を唱える人もいる。更に「斜め思想者」にAfD(ドイツのための選択肢)という右翼政党の支持者が多いことも挙げられる。もともと反移民政策を掲げて支持を得た政党だが、コロナの規制が厳しくなると、ネット等の媒体を巧みに用いて、反政府運動を展開した。政府の情報は操作されたものであり、マスク着用やワクチン接種の義務化は、自由な民主主義を歪めるものであるというプロパガンダが、40年に渡り東ドイツで政府の監視下におかれ、自由な思想を奪われてきた人々の琴線に触れたのだろうか。この右翼政党の支持者が多い旧東ドイツでは、その結果、コロナ患者が急激に増加してしまった。そしてもう一つ運の悪いことに、ドイツでは9月下旬に総選挙が実施され、16年続いたメルケル政権から、SPD(社会民主党)主体の連立政権になり、その移行期間にコロナの第4波がドイツを襲い、コロナ対策に遅滞をもたらしたことも少なからず影響している。
このコロナ禍において、それでも人々は普通を装うことに必死である。ワクチン非接種者に対しては厳しく規制される場面が増えてきているが、その他の感染済み、ワクチン接種済みの人々は、証明書さえ携帯していれば、それ程不自由を感じることはない。ベルリンのクリスマーケットは人で溢れている。私の働くオペラ座も、聴衆にはマスク着用義務はあるものの、連日大盛況である。そして私達は、計画されている公演を粛々と進めるため、全員が週2回のPCR検査をし、100%の安全を保つように努めている。しかし、それがガラスのようにいとも簡単に壊れてしまう危険があることを常に感じている。
現在のドイツの状況は、デルタ株に加えてオミクロン株の驚異にさらされ、決して楽観できるものではない。最近ドイツの保健相が、3Gというのは、感染済みか、ワクチン接種済みか、Gestorbene(ゲシュトーベネ、死んでしまった人)という状況になり得ると、冗談とも本気ともとれる発言で、ワクチン非接種者を非難していた。こうした危機を新政権がどのように乗り切るのか、クリスマス前に固唾を呑んで見守っている私は、とりあえず3度目のワクチン接種を終えたところである。
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