アメリカ人のポットラック・パーティーに呼ばれけど何を持って行こうか【元外交官のグローバルキャリア】
アメリカ社会ではポットラックpotluckパーティーがよくある。それぞれ一品持ち寄って、という会だ。事前に担当を「肉」、「野菜」、「デザート」と割り振る時もあるけど大概割り振られない。そういう時は、集まるメンバーの顔を思い浮かべて、はて何を持っていくか、と数日間は悩まされる。映えて、話題を提供し、自分の負担にならなくて、自分も食べたいものは何だろう。
校友会やサークルめいた、参加者を想定できない不特定多数の会がある。屋外の長台に食事が並べられるような20人〜40人の会や、室内でダイニングテーブルに置かれるこじんまりとした会がある。
外務省勤めの海外勤務だと大使館や総領事館の同僚たちと持ち寄ることも多い。シカゴでビールを自分で醸造していたアメリカ人の同僚は毎回「僕は新作を持ってくる!」とコンテストに入賞したような自家製ビールを食卓に並べていた。
ローリーの有名なアップルパイ
ルイジアナの夫の実家では家族が集まる時には、ジャンバラヤ担当、ガンボ担当、ポテトサラダ担当、パイ担当、と役割が決まってきた。義妹のローリーが焼くアップルパイは大好評で、義兄が「It is so good. How did you make it? 」と頬張っていた。ローリーは「It`s a family secret.代々伝わる秘伝レシピなの。」とすました顔をしていた。一度くらいは、その秘密を守り切れただろうか。ローリーの秘伝レシピはMarie Callendar社と共にあったと判明した。「スーパーで売っている冷凍パイを焼いていたの!」とローリー本人が大笑いで暴露したからだ。
「またあれを持ってきて」
昔だったら自作の一品を持ち寄ることは必須だっただろう。ブラウニーを焼いたり、デビルエッグを作ったり、ある程度の手間ひまをかけた。レシピの交換「This is delicious, can I get your recipe?」というのもポットラックでの話題の一つに使われる。例え、社交辞令であっても。
ロサンゼルスで、総領事館の先輩の自宅でのバーベキューの際に、自家製ディップを作ったことがある。ババガヌーシュというナスのディップで、市販のピタチップスと一緒に食べる。ナスを焼いて、皮を剥いて胡麻ペーストのタヒーニとニンニクとクミンに塩胡椒をフォークで混ぜ、オリーブオイルをたらせば出来上がりだ。再度のお招きに先輩にリクエストを聞くと、「肉が焼けるまでにディップがあると良いからまたあれを持ってきて。」と言われ、意気揚々とバーベキュー前夜に取りかかった。ババガヌーシュは出来立てよりも数時間寝かせた方が美味しい。
フムスを豆から作ったこともある。ひよこ豆を一晩つけて、茹でて、皮も剥いて、タヒーニをミキサーで混ぜて食べると、出来合いのフムスが物足りなくなる旨さだ。しかし、前日から水に漬けたり、ひよこ豆の皮を剥いたり、油まみれのミキサーの後片付けをするのはなかなか面倒だ。その点ババガヌーシュは同等の感動を少ない手間で得られる。私はもうフムスは長らく作っていない。
簡単に作れて持ち運びやすいものを
ディップが長台に置かれていても必ずしもそんなに減りは速くない。ビュッフェテーブルではガツンとお腹にたまるものに皆の手が伸びる。パキスタンでよく持って行ったスコッチエッグはそんな一品だった。コロッケかと思いきや、ゆで卵が中に入っている。卵が丸々挽肉に包まれてパン粉で揚がっている。ビールにも合うし、子供も喜ぶ。
卵を茹でて、包んで、揚げて、なんていう手が込んだ一品は、自宅のコックのおかげだ。そして両手に風呂敷に包んだ大皿を抱えて、運転手がドアを開けて車で移動するから持っていける。パキスタンにはデパ地下はないし、電車やバスがあるわけでもない。居酒屋もないし、酒は流通していない。テロの心配もある。だから同僚の家で集まり、大人も子供も大皿を囲むのだ。
自分が食べたいものを
ポットラックに持っていくのは、映えて、持ち運びが楽で、話題性があるものが良い。その時に集まる顔ぶれを考えて、自分にとって負担にならないものであることが大事だ。できれば冷めても美味しいものが良い。肉が多い想定であればサラダは全体のバランスが良い。ポテトサラダやマカロニサラダは定番で、前日から家で作っておける。ルイジアナでの持ち寄りでは圧倒的に野菜が足りない。コールスローをスーツケースに入れて、肉やエビの間に並べた。自分が野菜を摂取したいがためだったが意外にも義妹や義母までよろこんだ。
冷凍の唐揚げを揚げてきても良し、崎陽軒のシュウマイや551蓬莱の肉まんなどならばそのままのパッケージでも日本人なら嬉しい。自分が気に入っている焼き鳥を現地で盛り付けてもいいだろう。塗りのお盆を持って行って、パックから出して並べる。丸めたスノコを広げ、刻みキャベツを敷いてコロッケを置くという手もある。
余ってしまったら
前回あっという間に無くなったのに、今回は減りが遅いということもあるから、その時に売れ残っても気にしないに限る。手慣れたホストは、残りそうなものがくたっとする前に、「Take what ever you want. どうぞ持って帰って。」と容器に入れてしまって声をかける。声がかからなくても、遠慮しないでフードロス削減に努めて何でももらって帰ろう。自分が容器を持ってきていれば中をささっと拭いてそこに入れることもできる。
これっくらいのおべんとばこに
4月にアメリカ大使館宿舎で校友会の持ち寄りがある。ホストの女性外交官達はBBQのケータリングを考えているようだ。今回は不参加だけど、いくとしたら私は小さめにおにぎりを握って、漬物でも添えようか。うちの房総の家の庭で採れた南高梅で母が漬けた梅干しと、厚くて香りが良い海苔を巻こう。電車に揺られて持っていくから、帰りは捨てられる紙箱にしようか、重ねられる容器と並べようか。日米の老若男女が集う会に、おにぎりおにぎりちょいと詰めて。