名は体を表す - 学名から読み取る細菌の特徴

※こちらはイウしキー Advent Calendar 2024の記事です。

はじめに

 突然ですが、今まで生きてきた中でみなさんは学名を覚えなければならない場面に遭遇したことありますか。
 基本的にはないかもしれませんが、暗記を強いられる人たちも中にはいます。医療系の国試受験生ですね。
 私自身獣医師なので、何回もそういう状況を強制されましたし、$${\textit{Francisella tularensis}}$$とか$${\textit{Bordetella bronchiseptica}}$$とか呪文めいたものがわんさか出てきて発狂しそうになる。こんなん覚えられるか!とよくキレてました。
 でも実は細菌学に限ってですけど、学名って語幹で覚えれば暗記量が半分くらいで済むんですよ。(当社比)(他の学問は知らない。)
 なので今回は、そういった学名の中でよく見る語群について意味と共に紹介していきたいと思います。ちょうど来年2月にはいろんな国試が実施されるし。
 なお、私が獣医師のため、基本的に獣医学でよく見るものをピックアップしています。ヒトの方でも使えるかはわかんないのでご了承ください。
 あと、斜体と太字が併用できないっぽくて太字の部分は斜体にできてないです。ゆるして。

菌の形を表す -coccus, -bacillus, -bacterium

 -coccusは球菌(丸っこい菌)、-bacillusや-bacteriumは桿菌(細長い菌)のことを示します。どちらもラテン語由来です。
 比較的人口に膾炙したものとしては黄色ブドウ球菌の$${\textit{Staphylo}}$$coccus $${\textit{aureus}}$$や腸まで届く乳酸菌の$${\textit{Lacto}}$$bacillus 属細菌などがあります。これらは学名通り、前者は真ん丸な菌、後者は長方形のような形の菌になっています。ちなみに乳酸菌の方のLacto- はラテン語語源でmilkという意味です。乳糖分解酵素(ラクターゼ)だったり、あと甘い匂いのするラクトンだったりありますけど言ってることは一緒です。まさに酸菌です。

動物種を表す -canis -felis -bovis -equi -hyo -melitensis -avium

 ここらへんは動物種を表してます。-canisが犬、-felisが猫、-bovisが牛、-equiが馬、-hyoが豚、-melitensisが羊、-aviumが鶏です。
 用例を挙げると犬や猫が貧血を起こすヘモプラズマ症を引き起こすものとかそうです。犬のヘモプラズマ症を起こす菌(正確にはマイコプラズマ)は$${\textit{Mycoplasma haemo}}$$canis、猫のヘモプラズマ症を起こす菌は$${\textit{Mycoplasma haemo}}$$felis という学名がつけられています。ちなみにhaemo-はヘモグロビンのヘモから連想できるように「血液の」という意味があります。なので学名をみれば「ああ、犬の(猫の)血液の病気なんだな。」という情報がすぐにわかります。
 bovisは牛伝染性角結膜炎を引き起こす$${\textit{Moraxella}}$$ bovisとか。equiなら仔馬に重度な肺炎を起こす$${\textit{Rhodococcus }}$$equi。hyoの例だと豚赤痢を起こす$${\textit{Brachyspira}}$$ hyo$${\textit{dysenteriae}}$$があります。ちなみに-dysenteriaeは下痢を意味しそれぞれの語幹を理解していれば、$${\textit{Brachyspira hyodysenteriae}}$$=豚赤痢と単純に丸暗記する必要はなく、都度都度意味からこの等式を組み立てていけばよく、$${\textit{Shigella dysenteriae}}$$など、たとえ初見であっても(国試前の獣医学生が初見であってはいけないが)語幹が一緒なので臨床症状を類推することが可能となります。(ちなみにヒトの赤痢を引き起こす志賀赤痢菌です。志賀潔のShigaに細菌ですよという意味を表す-ellaをつけてShigellaとなってますので、学名がそのまんま答えになってますね。)

病状を示す -dysenteriae -pneumoniae -abortus

 こちらは主にその菌が引き起こす臨床症状を示しています。-dysenteriaeが下痢、-pneumoniaeが肺炎、-abortusが流産です。(どれもラテン語由来ですが、英語でも肺炎はpneumonia、流産はabortionと言いますよね。)
 -dysenteriaeは先にも例に挙げた豚赤痢菌の$${\textit{Brachyspira}}$$ hyo$${\textit{dysenteriae}}$$、-pneumoniaeだと$${\textit{Actinobacillus pleuro}}$$pneumoniaeで豚胸膜肺炎を引き起こします。-bacillusもついてるので桿菌であることが自明ですね。-abortusについては馬パラチフスと呼ばれる、流産を特徴とするウマ科特有の疾病を引き起こす$${\textit{Salmonella}}$$ abortus$${\textit{equi}}$$なんかがあります。-equiもついてるのでabortusequiと見た瞬間に主にどの動物に罹患し、どういう症状を示すかを読み取ることが可能です。

菌の性状を示す -philus(-a, -um)

 菌の性状を表すもので覚えておくといいのは、-philusでしょうか。
paraphilia(性的倒錯)やpedophilia(小児性愛)のphiliaと語源同じく、こちらも「~好む」という意味を持ちます。
 たとえば、牛や緬山羊などに皮膚炎を引き起こす、$${\textit{Dermato}}$$philus $${\textit{congolensis}}$$ですが、dermatoが皮膚という意味を持っているため(主に皮膚にある多糖類でデルマタン硫酸というものがありますが同じくギリシャ語の「Delma」から来ています。)、皮膚が好きな=皮膚に住み着く、皮膚になんらかの影響を与えるという意味が学名から読み取れます。
 他だと、マイナー食中毒ですがエロモナスハイドロフィラ感染症と呼ばれるものがあり、$${\textit{Aeromonas hydrophila}}$$に感染したなまずなどの淡水魚を食べることで急性腸炎を引き起こしたりします。hydroは音から水であることがわかると思いますので、hydrophilaから水が好き、淡水や海水に生息しているんだろうという予測ができます。

おわりに

 いかがでしたか。正直医療系の学生なら知ってる方も多いかと思います。もっとなにか覚えておくと便利なものがあった気もしたんですけど、もう6年前の学生時代の記憶を頼りに羅列したので結構思い出せませんでした。
 とりあえず、こういうものはまずはどういう意味かを知ることで大幅に暗記量を減らせるし興味を持てるのではないかと思います。
 そういった細菌の学名を知りたい場合には、LPSNというサイトがおすすめです。英語ですが、あらゆる菌の語源が記載されているので学生時代はよく使っていました。
 では、かなり雑でしたがこれで終わりにしたいと思います。来年国試を受ける方はラストスパート頑張ってください。

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