父娘
夫の同僚の、小学生の子供さんが亡くなった。
交通事故だった。
子供を失う悲しみは想像を絶する地獄だろう。
事故死からしばらくして、その人は何か思うところがあったのか、その地域では有名な霊能者にみてもらったそうだ。
霊能者から、死んだ子供がその人にまとわりついている。何で気づいてくれないのか、不思議がっている。そう言われたそうだ。
そのあと子供をどうしたか、浄霊したかどうか、夫は聞かなかった。というか、その人の心情を思えば、聞くことは出来なかった。
その人には奥様ともう1人、成人した子供がいたらしいが、家族で支え合って悲しみを乗り越えた…というようにはいかなかった。
その人は少しずつ活気がなくなっていった。やがて仕事に来なくなり、家にも戻らず行方不明になった。
季節は冬。東北の冬は厳しい。
たぶん春になって雪が溶けたら見つかる。
子供に連れていかれたんだろう。
皆が噂した。
その地域には有名な霊山があり、冬になると閉鎖されて春まで登ることも降りることもできない。
やがて春になり、その人の車が霊山へと向かう山道で見つかった。
人は死んだら魂は山に向かう。そして山からあの世に行くのだそうだ。
近所の人が教えてくれた。
死んだ子供に連れて行かれたのか、それとも自らついて行ったのか…。
雪が溶け、大地から春が芽吹く山道を、父と娘が歩いている。
暖かな陽の光に包まれて、死者の道を行く二人。
道は、きっと極楽浄土へと続いてる。
※これはブログに2019年8月にあげたものを、再編集しています。尚、2020年7月に怖話サイトにも投稿しています。