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漫文駅伝『三浦マイルドの田舎暮らし』 第5回 三浦マイルド

どうも、三浦マイルドです。

先月末、八王子での単独ライブと苦肉祭出演の為、東京へ行きました。
久々に東京の空気を吸えて、とても有意義でした。

都会で暮らしている頃は、たまに大自然に触れたくなっていましたが、逆に田舎暮らしをしていると、都会の喧騒が恋しくなります。

コンクリートジャングルで彷徨いたいとか、東京砂漠で遭難したいとか、そんな事ばかり考えてしまいます。

鈴木亮平さん主演の実写「シティーハンター」の予告動画で映る新宿歌舞伎町を見て「また行きてえ!」と興奮しておりました。

一般的に歌舞伎町というのは、悪いイメージが先行してると思います。

アジア最大の歓楽街ですが、ヤクザや半グレも多く、治安も決して良いとはいえません。

キャッチの数も凄く、キャバクラやらガールズバーやら裏DVDの販売やら、いかがわしさ満開です。

歌舞伎町で
「R-1優勝おめでとう!昔から貴方のファンです!テレビの前で泣いた!」
と言いながら抱きついてきたキャッチの兄ちゃんに「三浦マイルドさんに新宿の楽しい夜を提供したい。新宿最強のキャバクラに案内します!」
と言われ、連れていかれた店が、連れ出し系の違法風俗だった事があります。

従業員の女性がカタコトの日本語で「ホテルイコ、ホテルイコ」と言われて、ここはキャバクラじゃないんだなと気づきました。

お店の前で払わされた前金は当然、返ってきません。

怖くなり、逃げる様に店を後にしました。

喧嘩で人が殴られて気絶するのを見たりもしました。

真冬の朝に酔っ払い数人に囲まれてレミオロメンの「粉雪」を合唱された事もあります。

なかなか酷い体験です。

以前、新宿歌舞伎町でライブをした時、地方から観にきた女性の方に
「正直、歌舞伎町を歩くのは怖い」と言われました。

イメージも相当悪い様ですね。

でも何故かこの新宿という街が大好きなんです。

素敵な劇場もたくさんあります。

今年5月に店主が亡くなられた、新宿二丁目にある道楽亭という寄席小屋にも大変お世話になりました。

快楽亭ブラック師匠と二人会をさせていただいたり、居島さんの代演で、新・気違いライブに出演したり、貴重な経験を沢山させていただきました。

新・気違いライブの終演後、帰路で、ライブのお客さん同士が取っ組み合いの喧嘩をしていて、
「自分なんかビジネス気違いだ。この方達こそ本物だ」と思い知らされました。

道楽亭に来られてたお客さんに、「私が主催する演芸会に出てもらえないですか?」と依頼され、連絡先を交換し、後日来た話が「私の自宅でネタを120分やりギャラ3万円」という案件でした。

「わしゃデリヘル嬢か!」と喉まで出かかりましたが、丁重にお断りしました。

全く面識のない噺家さんと二人会をした事もあります。

本来、ねづっちさんと三遊亭かけ橋さんの会だったのですが、ねづっちさんが会の前日に濃厚接触者となり、急遽代打で執り行いました。

Twitter上で見た「普通中止だろ。凄えな」というツイートが忘れられません。

全てが良い思い出です。

新宿は私が大好きな映画「竜二」の舞台になった場所でもあります。

昨年10月末、テアトル新宿で、この作品がリバイバル上映されました。

私はこの時すでに、地元広島に帰る事を決めていました。

竜二をスクリーンで、しかも新宿で見れる機会はもうないかもしれないと思い、映画館に足を運びました。

あらすじを簡単に説明しますと、家族の為にヤクザから足を洗う事を決めた主人公、竜二が堅気の世界で生きていこうともがく話です。

自分も親の介護の為に、東京から撤退するのを決めていたので、竜二と自分を重ねあわせて見ていました。

最後に竜二がどういう選択をするのかはネタバレになるので書かないでおきます。

ただ、この映画の主題歌、萩原健一さんの「ララバイ」が流れるエンドロールの最中、涙が止まりませんでした。

映画館から一歩外を出た時、私は完全に竜二になりきっておりました。

眉間にシワを寄せ、新宿駅東口辺りを歩いていると、大学生くらいの男の子に声をかけられました。
「三浦マイルドさん、僕、霜降り明星のオールナイトニッポンを毎週聞いてて、三浦マイルドさんのゲスト回、凄く面白かったです!」

そう言われて、私から出た言葉は

「霜降り明星の事、よろしく頼みますよ」
でした。

これは、竜二の名シーンで
組事務所で、ヤクザを辞めて堅気になる事を兄弟分達に伝えた後に、竜二が放った台詞

「ナオとヒロシ(竜二の舎弟)の事は恥かかせないようによろしく頼んますよ。でないと竜二はいつだって戻ってくるぜ」

に影響されたものです。

言われた大学生はポカンとしておりました。

私に頼まれなくても、霜降りの二人は充分よろしくやってますからね。

今、思い返すととても恥ずかしいです。

興奮冷めやらぬ私は、その勢いで母親に電話をしました。

東京から広島の実家に帰ると決めた事を、まだ伝えてなかったので、この機会に伝えようと思ったのです。

竜二でも、ヤクザを辞めた事を妻に電話で伝えるシーンがあります。

「堅気になってやったよ、、」と。

普段、母は耳が遠いせいか、電話しても中々繋がらないのですが、その時は直ぐに繋がりました。

「お母さん、わし、来年から東京の家を引き払って、広島に帰るけえ」

母は、うん、うん、と頷くだけでした。

それでも電話越しに喜んでいるのを僅かに感じれました。

新宿の雑踏の中で電話をして、映画のワンシーンみたいだなと酔いしれていたその時です。

核融合党という団体の街宣車が目の前を通りかかりました。

「かぁくぅゆうごうぎじゅつーはー、あぁあんぜぇんでぇええ、ぷるとぉにゅうむはぁああ」

独特な語り口調の街宣が爆音で鳴り響き、私の声を母が全く聞き取れなくなり、通話を断念しました。

頭の中では、主題歌「ララバイ」が流れていたのに、、

これもまた、新宿ならでは、東京ならではの話です。

時々ですが、島の海や山を見ながら、東京での出来事をしみじみと思い出すのです。

〈続く〉

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