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hot or no hot ② ホット環境と身体への影響 (Yoga+Science)

ホット環境下におけるヨガレッスンで、体に起こる指標で報告が上がっている一部について先日まとめてみた。

「Hot or no Hot?① (Yoga+Science)」


ホットヨガ環境が、人の体調の好不調に長期的にどのような影響を与えるか?は、どのくらいの頻度が好不調の境目なのか、その観点でデータをとったものは今のところみたことがないので(そもそも取ることは難しいと思うが、、、)、なので、科学的に「ホットヨガ環境は身体に悪影響がある」と、論じることはできない。


一方で、ホットヨガ環境が、常温ヨガの環境とは異なる身体的変化があるということは、色々な要素で考察されている(上のリンク内に少し触れている)


と、いうことで、温度設定の違いにおける体調への影響について語ることは難しいので、そもそも高温環境が身体に及ぼす影響についてみてみようと思う。



以下は、Possible effects of hot yoga: An objective approachからの引用のまとめで、ホット環境における身体に起こりうる要素の全体像が見えてくると思う。(インドのカイヴァリヤダーマのサイトより)
(前提が、ホットヨガの環境は悪影響であるを証明したい、、、というスタンスなのですが、だからこそどういう観点から議論を展開しているのか見えやすいので取り上げたらいいかな、、、と思いあげます。)


「ホットヨガ環境が及ぼす、主な影響因子は、身体システムの障害であり、その中には、身体活動の減少、モチベーションや能動的な活動の減少、中枢系に及ぼす疲労度などがあるとされている。

筋肉疲労は、動脈酸素(O2)供給の減少 (Nybo、2008)、心血管系へのストレス(Wilson, et al., 2002;2006)、低血糖症(Nybo、2003)、神経伝達物質レベルの変化(Nybo & Secher、2004)、収縮筋細胞からの感覚フィードバック障害 (Morrison, et al., 2004)、ドーパミン作動活性を阻害(Meeusen, et al.,1995, Nielsen, 2003)などと言われている。

熱ストレスでは、体温調節のために、皮膚の血流が増加し、心拍出量が増加する (Gonzalez-Alonso, et al. , 2000;Rowell, et al., 1965)。これは、高血圧につながる高い心血管への負荷を引き起こし(Wyndham, et al.,1968)、他の臓器への血流の減少を補うために心拍数の上向きのドリフトの体積を減少させる。(Radigan, 1949;Rowell et al.,1965)。これは、ホットでのパフォーマンス低下の支配的な要因と考えられています。(Fink, et al., , 1975; Koslowski et al.,1985)。

一般に、熱誘発運動では、より多くの発汗により血漿の脱水と高張性の結果(nose, et al.,1988a、1988b)、精神的および認知的なパフォーマンス両方に影響を与えます (Gopinathan, et al., 1988; Saeka,1992)。また、脱水は、コア温度と心拍数の上昇による発汗速度の低下をまねく(Gopinathan, et al., 1988; Sawka, 1992)。長時間の高いコア温度の状態により、周囲の皮膚の過水性(水分過剰)により、汗腺疲労(ヒドロメオ症)が起こる。(Kerslake, 1972)。実際、発汗のプロセスによって脱水症状と戦うには、水分摂取の許容の限界と熱損失を置き換えるための保存できる限界が人間にはある。(Newman, 1970; Schmidt-Nielsen, 1964)。したがって、このコア温度のわずかな上昇も致命的である(Burton, 1955; Kerslake, 1972)。」

これはあくまでも論文の一例であり、これがすべてではないし、彼らの主張が「ホットヨガは体に悪影響である」を論じたいので、まとめている文献もそういったものが中心となっていることは理解して読んでほしい。


特に、最後にある、ホットヨガ環境ではコア温度が上昇する、、、と記載されているが、複数の研究において、ホットヨガ環境でもコア温度は上昇せず、常温ヨガと同等であるという結果や、ホット環境においてコア温度の上昇は見られるが、危険な領域の温度まではいかないと報告されているので (Wisconsin大学の修士論文にこのようなものがあった:)ケースバイケースであるといえる。


そして、すっかり忘れていたが、2013年に私自身も、山梨大学大学院総合研究部教育人間学領域の小山勝弘教授のお力を借りて、ホットヨガ環境と常温環境の比較データの収集を行ったことがある。


群間比較をするために、以下の設定で行った。


◆被験者◆
健常人,およびメタボリックシンドローム予備群(投薬等の治療非実施)からなる男女24名


対照群
①常温常湿環境下でのヨガレッスン(Control, 1回/週×8週間)n=8
②加温加湿環境下でのヨガレッスン(H&H-1,1回/週×8週間)n=8
③加温加湿環境下でのヨガレッスン(H&H-2,2回/週×8週間)n=8

(n=人数)とし、3つのグループをそれぞれ比較した。被験者が各群8名と少ないのであくまでも参考としてではあるし、データ収集の目的は、「ホットヨガ環境は人体に悪影響はない」という点を見るというのが大きな目的でした。細かい設定は割愛しますが、血清中の糖化度(抗酸化力指標)、体組成、血液検査などを行いました。レッスン時間はそれぞれ1時間。内容も基本全群同じ内容を行うように設定しています。


◆分析結果◆ 箇条書き 一部抜粋


(1)レッスン介入前後の変化(絶対値:群内前後比較)

以下の5つの結果は、あくまでも各群内での8週間のレッスン前後の比較であるので、どの群がより効果が出たという見方はできない。


①皮下脂肪面積において,H&H-2群のみ,介入後に有意に減少した。
→H&H-2群は,8週間の総レッスン(運動)量が大きいため,他群で認められなかった皮下脂肪の減少効果が顕在化した可能性がある。


②H&H-1群のGOTに関し,介入によって有意に減少した.
→GOTは肝機能指標として頻用される.H&H-1群のpre値が他群に比べてやや高め(肝機能が低下傾向)であるが,少なくとも加温加湿環境のヨガレッスンによって,それらが改善される方向に変動したといえる.


③血糖値に関しては,全ての群において,介入によって有意に減少した.
→本研究ではヨガレッスンを行わない安静コントロール群を設定していないため,明確に言及できるものではないが,8週間のヨガレッスン(8〜16回)は確実に糖代謝を改善し,環境条件に関係なく血糖コントロールを実現する有効な手段であることが示された.


④H&H-2群の3デオキシグルコソン(3DG)は,介入後に顕著に減少した.
→非酵素的化学反応である糖化反応の中間生成物と考えられる3DGは,タンパク質を構成する構造であるアミノ基等に対して,グルコースの10,000倍の反応性を有する.したがってペントシジンなどのAGEsの動きに比べてよりセンシティブな指標であり,軽微な糖化現象の進行を反映していると考えられる.この意味において,H&H-2群で3DGが減少したことは,週2回程度の加温加湿ヨガレッスンの抗糖化ストレス効果を示唆する結果として非常に興味深い.
注:デオキシグルコソン(3DG):AGEs生成に寄与する化合物。
AGEs=終末糖化産物の総称。たんぱく質または脂質が等へ曝露されることによって糖化反応(メイラード反応:たとえばホットケーキ・小麦粉+砂糖を焼くと茶色くなる反応)によって作られた生成物の総称。AGEsが高いと、細胞の糖化度が高い=老化度の指標としてもつかわれることもある。

つまりそのAGEsの前段階である3DGの数値が、糖化に影響を与えるので、3DGを一つの指標としてみる。


⑤H&H-2群のBAPは,介入後に顕著に増加した.
→食事等の影響を受ける指標であるが,全群に食事介入は行っていない.H&H-2群の8名の被験者のうち,実に7名が介入前後でBAP値が増大しており,機序は不明なものの,確実に抗酸化力が向上していることを示唆している.



(2)レッスン介入前後の変化率(相対値:群間比較)
(1)は群内比較であり,介入条件間の比較ができていない,そこで次に,各群の介入前初期値の差異を考慮して,介入前後の変化率を算出し群間比較を行った(これがより重要な結果)


①GOTに関して,H&H-1群の変化率がControl群と比較して有意な低値を示した.
→前後比較による検証でも述べたように,加温加湿環境のヨガレッスンを週に1回のペースで行うことが,肝機能指標の改善に寄与しているといえる.ただし,H&H-2群との有意差は認められておらず,レッスン頻度の優劣に関しては言及することはできない(週1回vs.週2回)


②3DGの変化率はControl群に対して,加温加湿レッスンの2群(H&H-1群とH&H-2群)で有意な低値を示した.
→レッスン頻度の差異による影響は認められないものの,確実に加温加湿環境下のヨガレッスンが糖化ストレスを減弱させていると考えられる.有意差は認められなかったが,ペントシジンの変動結果からも,その傾向は支持されると思われる.今後はどのような機序を介して生じる現象なのかを検討する必要がある.


と、目的であった「ホットヨガ環境は安全かつ体に好影響を及ぼす可能性がある」ということは言える結果になったが、きちんと検証するにはもう少し設定を厳格にする必要はあった実験でした。



色々なことを考えているうちに、ホットヨガ環境でのインストラクターの労働は、暑熱環境での労働者と同じ条件であるのではないか、、、という結論に至り、そうであれば暑熱環境における労働について理解する必要があるのではないか、、、と思った。

なので次回は、暑熱環境労働、または暑熱環境でのスポーツでの対応について書いていきたいと思います~。

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