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山小屋滞在録(13) 〜72歳の夏休み! 編〜
72歳になった夏…
7月に入ると、世の中はどんどん暑く暑くなっていった…
抗がん治療は、当初の予測を遥かに超え、何と20セット(1セットは週1回の化学治療を3回+1週間休み)を無事クリアし、丁度この時期に治療休みを貰えることとなった。
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休み期間は7/27から8/15…
世の中の夏休み連休時期とバッチリ重なってしまったが、まあ体調もまずまずなので、世の中の様子を見ながらこの夏も熊本・南阿蘇の山小屋に滞在することとする。
がん宣告以来1年半、仕事はほぼお断りしているし、ここ最近は仕事仲間からの様子伺いの連絡もすっかり無くなってしまったので、今更夏休みもへったくれもないのだろうが、それでも週1回の治療が無く、自宅の建て替えの工事も夏休み時期は諸々ストップしてしまう。
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年々酷くなってゆく都会の猛暑を逃れて、さらにのんびり夏休みにするのも良かろうと、命からがら生き延びた72歳の『夏休み』を楽しむことに決めたのだ。
倉敷へ…
7月19日に家族や近所の従妹夫婦に72回目の誕生日を無事祝って貰うと、その翌週最後の抗がん治療を終えて、28日日曜の早朝に東京を出発した。
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世の中はもうすっかり夏休み気分なので、ある程度の混雑を見越して早めに出発したのだが、高速道路交通量はいつもより多いものの、首都圏を抜けるとさしたる渋滞にも出会わず、いつもの通りすんなり倉敷のホテルに到着。
のんびり身体を休める。
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夜はいつもの通り恒例の親友トベちゃん夫妻との会食… そして今回は翌朝、トベちゃんお奨めの玄米朝食のお店『士水』に連れて行って貰った。
昔ながらの土間の厨房で釜で美味しく炊かれた玄米… それにお漬物に野菜たっぷりの味噌汁、さらに削り節… 物凄く正しい朝食を頂くと、何故か頭の芯がすっきりして、エネルギーがしっかり充填された気がする。
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熊本へ…
今回はトベちゃんご夫妻から美味しそうな岡山の白桃のお土産(写メし忘れたが)を頂いたので、まずは熊本市内の家内の実家を目指すこととする。天気は上々… ただしどのSA・PAも灼熱地獄。夏休みの家族連れでごった返している。
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家内にも運転を交代して貰いながら、まずは熊本市内へ…勿論気温は軽く35℃を超えていたが、庭が広いせいだからか、東京と比べると朝夕は少し過ごしやすい気がする。
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そして翌日南阿蘇の山小屋へ…
阿蘇の外輪山を抜け南阿蘇に入ると、そこはもう標高300mを超える。
気温は市内と比べれば一気に4~5℃は下がるものの、それでも32~33℃はある。
さらに中心の中岳の山道を登り、我々の山小屋辺りは標高はさらに高くおよそ700m近くなる。
いつもならどんな猛暑の夏でも外気が30℃を超えることなどまずないのでエアコンも設置していない。
ところが、今年はどうやら様子が違うようだ…
下界と比べれば間違いなく過ごしやすいが、いつもより蒸し暑い。
室内の温度計を見ると、僅かだが30℃を少し超えている。
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窓を開け、風を入れてじっとしていれば何ということはないが、室内の片付けをしたり生活の準備をしたり、身体を動かすと汗がじっとり滲んでくる。
丁度私が子供の頃… 50~60年前の東京の夏の気温と同じくらい… もしかするとこの山小屋にも間も無くエアコンが必要となる時が来るのかもしれない。
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山口・角島へ…
そのまま月末の2日間はゆっくり山小屋で身体を休め、8月を迎えた1日の日、私は思い立って山口県に向かった。
実は私には前妻との間に設けた娘が1人いる。
長くイラストレーターをやっていたが、ここ最近になって山口県の角島という場所に魅入られて、そこでゲストハウスを経営し始めたのだ。
山口県の角島は本州北西端の島…
戦時中は北方への防衛として軍が掌握していたが、周囲に広がるコバルトブルーの海の絶景から、県内外の富裕層の人気を集めた高級観光地であり別荘地だった。
ここ最近はインバウンド効果からか一般観光客や海外からの観光客が激増しつつあるものの、元々漁村が点在するだけの庶民的な地域。
周囲には観光用の手頃な宿泊施設が少なく、娘はそこに目を付けたようだった。
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角島には1人車で向かった…
熊本からはおよそ250km、片道3時間もあれば充分だ。
昨年娘は島戸という角島対岸の小さな漁港の村の空き家を買取って、現在手作りリフォーム中…
ところが工事中から宿泊の問い合わせが相次ぎ、一部を宿泊施設に解放し始めたところ、シーズン中はほぼ予約で満室となってしまうらしい。
是非一度見に来てほしいとの連絡で、久々に娘に会いに行ったのだ。
パートナーのムッチーくんとは初対面。
宿泊客予約の隙間を狙って一泊… 娘手作りのロールキャベツとパートナーお手製の地元しめ鯖で歓待して貰った。
美味しく楽しく、久々の娘との絆を確認する一晩だった…
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私の自宅にも何度か泊まりに来ていたので、私のことも覚えてくれていたようだ
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夏の山小屋…
そして翌日から山小屋生活に戻る。
今回の目標は、まずここ暫く使用不能となってしまっていた井戸ポンプの復旧準備。
山小屋の井戸ポンプは元来このエリア共有のもので、10世帯以上をリカバーできるでかいタンクを備えた大型のポンプだった。
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高地なのでポンプの深さは150mもある
そもそも南阿蘇の森林地域の別荘用宅地化が進んだのは、遥か昔バブルの頃。
沢山の別荘地は投機物件としても飛ぶように売れた。
ところがその後バブルは見事に崩壊。
こうして放置されている別荘地が文字通り山のように点在するのだ。
我が家の場合も同時期に宅地化された別荘地。
全6世帯分全てが売れているが、一番広い敷地の我が家(G)以外の5世帯は全てその後放置。
我が家だけが山小屋を建て利用している。
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実際家が建っているのは一番広い敷地の我が家だけだ
なので共用の井戸ポンプも、我が家専用に使用していた。
ところがこの2年ほど前から調子が悪くなり、修理を考えていたがあまりにも膨大な費用が掛かるのと、良い工事業者を探すのにも伝手があまりにも薄いので、100m離れたお隣の水道設備と簡易ホースで直結させて貰い、滞在ごとに貰い水状態に甘んじていた。
ところが、前回ひょんなことから熊本のとても良い業者さんを紹介して貰うことができた。
今回はその業者さんと会って計画を進めることになったのだ。
さらにこの時期絶対にやななければならないのが山小屋周囲の草刈り。
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そして秋冬に向けて敷地内に放置していた太い枝木を整理しておかなければならない。
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雨が当たらないように整理しておかなければならない
絶対にやらなければならないのはこれだけだが、もし出来ればかつてディレクター駆け出しの超忙しい頃(40年前)、どっぷりハマり睡眠不足で危うく身体を壊しそうになったドラクエのⅠ〜Ⅳをのんびり山で楽しもうかと思ったが、いつもの熊本の友人と会ったり、義弟一家の様子伺いに行ったり、はたまた草刈り用の仮払機の思わぬ故障などで、どんどん時間が過ぎてしまった…
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それでも日々思った以上にのんびりした時間を楽しみ、美味しく食事を頂き、パリオリンピックの放送で日本の選手たちの活躍を楽しみ、大谷翔平くんの日々の成績に一喜一憂し、はたまた日常とは違う自然の営みを間近で感じながら思い切り山の時間を体感することができたのだった。
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部品はすぐには手に入らなかった…
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旧仮払機の部品は帰京後ネットで購入することにする
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Taizo、この夏はオオムラサキで登場か…
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大阪に向かう…
さていよいよ帰路だ…
お盆間近の8/13に混雑覚悟の上で出発することとする。
今回の中継地点は初めて大阪を選んだ。
大阪中之島の美術館で醍醐寺の国宝展があり、家内がそこに展示されている落合陽一氏のオブジェを是非見たいと言ったからだ。
ん?大阪?...
そうだ!大阪に1泊するんだったら『ささヤン』に会いに行こう!
『ささヤン』とはこの20年来ネットで親しくお付き合いさせて頂いている友人だ。
彼は私と同年代で、私と同じ映像ディレクター。
その上ギター弾きでドラマー。
お互いにこの20年間のそれぞれの人生経緯の概略も何となく通じているのだが、このささヤン、実は私は一度も会ったことがないのだ。
かの私のバンドMongoloidsのドラマーTakuが病気で倒れた折には、1年もの長きに渡ってリハーサルドラマーとして参加してもらっている。
ただしこの時もリモートリハーサル。
ささヤンは毎回自宅のプライベートスタジオからの参加だったので、この間も実際に会うことはなかった。
もちろん他のメンバーもささヤンとは会ったことはない。
奥様は実業家でSP制作会社のオーナー。東京に支社を設立した際に映像制作について諸々相談したいと一度お会いしたことがあったが、その後も肝心のささヤンとは一度も会わずじまいだったのだ。
で、早速連絡を取ってみると、色々とスケジュールを調整してくれて、移動日の夜にご自宅にご招待いただいた!
前日上りの高速は渋滞が続出とニュースで聞いていたので、恐る恐る余裕を見て山小屋を後にしたのだが、意外や意外、渋滞は僅かな事故渋滞だけで、すんなり夕刻前に中之島のホテルに到着!
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少し休んで、ささヤンの自宅のある川西へ…ワクワク…
そこは閑静な大阪へのベッドタウン… そこに佇むささヤンのお宅は、住宅地と手付かずの森谷の境に建てられた素晴らしい庭付きの和モダンな平家住宅…
環境も素晴らしかったが、ささヤン夫婦の人柄(長い付き合いなので察しはついていたが)もなかなかで、我々夫婦もすっかり寛いでしまった。
奥様の美味しい手料理で歓迎して頂き、物凄く楽しい会食となった。
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そして翌日、朝から醍醐寺国宝展と落合氏の作品を愛で、夫婦力を合わせて混雑の始まった東京までの道8時間を何とか踏破…
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こうして楽しい楽しい72歳の夏休みが終わった。
再び始まる抗がん治療に備えてたっぷり深〜い睡眠を取ったのでありました。
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