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薄暗い部屋に浮かび上がるダ・ヴィンチの絵
イギリス留学中のお話、第2弾。
大好きな美術館
ロンドン留学中に「イギリスすごっ!」と思ったことは、名だたる作品をタダで見れること。
私の好きな ナショナル ギャラリー の入場料は無料でした。国宝級の素晴らしい作品が、いつでもタダで見られる!
美大生にとってはもちろん素晴らしい環境でしたが、英国では国民全体がこの豊かな文化に触れ、その恩恵を享受する権利があるという考え方が社会の中にあるように感じました。また、芸術は決して特定の、そして一部分の人々のものではなく、国民全体の財産であり教養である、というようにも感じました。
ダ・ヴィンチのデッサン
ナショナル ギャラリー には、私の大好きな絵がありました。心を落ち着けたいときには美術館に向かい、その絵の前で時間を忘れてずっと立っていました。ただただ、全身で絵を感じていました。この絵です。
![](https://assets.st-note.com/img/1693223523979-EqBez1orUZ.jpg)
'The Burlington House Cartoon'
The National Gallery
『聖アンナと聖母子(1499-1500)』というタイトルで、有色地の紙にチャコール(木炭)で描かれ、チョーク(白)のハイライトが入った作品です。おなじくダ・ヴィンチによるルーヴル美術館所蔵の『聖アンナと聖母子(1508-1510年)』から、およそ10年ほど前に制作された「下描き」だとされています。
絵が傷まないように、照明はだいぶ落とされた、数名しか入れない小さな部屋の中にこの作品はありました。その薄暗い部屋の中に、ボウっと浮き出るような立体感で聖アンナと聖母子像が描かれています。
もちろん聖マリアの表情も美しいけれど、その柔らかな筆跡、絶妙なハイライトで浮かび上がる光と陰影に心を奪われます。
薄暗い部屋で対峙するという場が、より作品の神聖さを増し、見る人に没入感を与えるのかもしれません。
私は暗闇に眼を慣らして、141.5 cm × 104.6 cm のこの絵を、上から下までなめるように見つめ、味わいました。
![](https://assets.st-note.com/img/1693218730071-5Do49W9CaZ.jpg)
こんな感じだったと思います
ちなみに、このような有色の下地に木炭デッサン、そして白のハイライトを入れて立体感を出す技法はグリザイユとか、インプリマトゥーラと言われます。
グリザイユはフランス語で「灰色」という意味で、モノクロームで描かれた絵画のこと。インプリマトゥーラは下地を有色にして描かれた絵です。インプリマトゥーラでよく使われる下地色は、この『聖アンナと聖母子像』のような茶褐色です。
私はグリザイユを学生のときに習いました。白地の紙の上に木炭等で陰影をつけて立体感を出していくデッサンは慣れていましたが、中間トーンであるグレーベースの紙に、黒で陰影を、白でハイライトを入れて立体感を付け、モチーフを浮かび上がらせるのはとても難しかったです。
ダ・ヴィンチと私のデッサンとでは、とても同じ木炭で描かれたものとは思えませんでしたが、毎回、人間の理では説明できないような光と陰影の魔法を見たような気分にさせられました。
帰路
身体全体で作品をたっぷり鑑賞したあとは、心のなかにその余韻を残しつつトラファルガー広場の雑踏に出て、自分の作品やいろいろなことについて考えながら帰路につきました。
毎日、もがいていたけど、自分に向き合う時間がたっぷりあった、かけがえのない時間でした。
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