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さくらインターネットは今日で上場から18年になりました

これまで皆さまに頂いた様々なことに、改めて感謝いたします。
せっかくの機会なので、これまでとこれからを、長々と書きます。
私が上場したのは2005年10月12日で、当時は27歳と、上場した起業家ランキングでは4番目に若いという光栄な記録があるそうです。ただ、それから1年11ヶ月後に最速債務超過ランキングで4番目に早い債務超過という、ありがたくもないランキングに入る羽目にもなるなど、平坦な道のりではありませんでした。
いまではありがたく東証プライムに上場していますが、今回は上場するまでと、いま考えていることにフォーカスして、上場後の話はまた機会があればまとめたいと思います。


起業したときのこと

さくらインターネットは舞鶴高専在学中に起業しました。そのキッカケはインターネットとサーバが好きで、それとたわむれ続けたいというものでした。
ちょうど1995年当時はHTTPやWWWが勢いを増してきたことから、自分でもLinuxマシンにWebサーバをインストールしホームページを公開していたのですが、学校に勝手に置いていたサーバだったため撤去しなければならなくなり、それならばと1996年に地元のダンスインターネットというプロバイダにサーバを置かせていただいたのが最初です。
良くもまあその当時に18歳でプロバイダと交渉して、サーバ買って置かせてもらって、起業しようなんて思ったものだと自分でも思いますが、とにかくインターネットとサーバが好きだったんです。
いまは私自身がサーバに触れる機会も減りましたが、サーバやネットワーク、データセンターやプログラミングが大好きな人たちが入社してくれて、いまの私自身の仕事は、サーバに関わる仕事をしたいと思っている人に仕事を提供し続けることなんだろうと思っています。
なので、AWSがあるじゃないかとか、外資クラウドに勝てないとか言われても、私たちは私たちがやりたいクラウドサーバを作る仕事をやっているので、そんなこと言われる筋合いはないと思っていますし、クラウドを使えるだけじゃなくて、クラウドを作れる人が居て、そういう会社がこの国に存在し続けることは大切なことだと思っています。
そしていつかは規模的にも内容的にも認められるようになりたいと思っています。

資金調達と挫折

話を戻すと、1996年に18歳で起業したあと、20歳で大阪に出てきて有限会社化しました。70%の出資金は私が出して、残りはダンスインターネットの社長であった梅木さんと、後輩の菅さんに出してもらいました。
ちょうどその頃はネットバブルが始まった頃で、私の会社にも出資をしたいという話をたくさん頂くようになり、21歳の時に株式会社化したのですが、すぐに光通信さんから100億円で買収したいという話が出てくるほど、浮ついた話が山ほどあった時代だった事を思い出します。
その頃に会社を売っていれば、億万長者になっていたのでしょうけれども、21歳で何十億円もゲットしてたら、碌でもない人生を送っていたんだろうと思いますが、今となっては分かりません。
結局、ジャフコさんをリードのVCとして、スタートアップらしく資金調達をすることになり、2000年ごろに億単位のかなりの調達ができたことから、自らインターネットバックボーンを構築したり、データセンターを開設したりしたのですが、ネットバブルはあっという間に弾けました。
本当は2002年に上場すべく頑張っていたものの、ネットバブル崩壊で顧客の大半が破綻して、そもそも自社の資金繰りもままならず、キャッシングをして社員に給与を振り込むような毎日が続き、もしその時に上場してたら24歳だったので、いまだに最年少上場だったかもしれませんが、上場なんて夢のまた夢となるわけです。
ちなみに、当時の投資契約書には、買い戻しの条項は特になく、種類株式もなかったので、VCさんから上場の圧力はそれほど強くなかったのはありがたいことです。
余談ですが、この頃のスタートアップは、何億も調達してそれを自分の給与にしたり、車などの購入資金にしたあげく、VCさんからのお金を溶かしまくったので、VCさんも知恵をつけて買い戻し条項がついたわけですが、とはいえそれは酷すぎるだろうと次はVCさんが責められ、いまでは種類株で優先配当を投資家が得るという落とし所になっているのも、歴史があってのことですね。

上場に至るまで

このように厳しい状況になったわけですが、顧客が簡単にサーバまるごと利用できるという「専用サーバサービス」の開発と提供を通じて、mixiさんやGREEさん、CyberAgentさん、ペーパーボーイさんなどの、いまでいうWeb2.0企業さんが主要顧客となり、その方々が大きく成長されたこともあって、2003年頃には業績は急回復するに至ります。
当社自身は、VCさんからの資金を事業にだけちゃんと投資して、けっこうしっかりとしたインフラ基盤を構築できたことから、一時期はスタートアップの大半がさくらインターネットを利用するといった状況を作ることができ、再び上場への道を歩むのでした。
そして、2004年に念願の上場申請を行うのですが、ほぼ審査が終わったにもかかわらず、途中から遅々として進まなくなりました。
その背景にあったのは、2004年に発生した西武鉄道の粉飾決算事件、いわゆる西武事件で、当社だけでなく全ての上場審査がストップし、結果として2度目の上場断念を経験することになります。
仕方がないので、当時、大阪証券取引所に設置されていたヘラクレスへの上場申請をするわけですが、ライブドアや村上ファンドなどが華やかりし当時、ネット経由の証券売買が激増してヘラクレスの売買システムが止まってしまい、結局新規上場受付中止になってしまいます。2度あることは3度あるとはよく言ったもので、結局3度目の上場断念となりました。
ただ、私もしぶといので、もう西武事件から1年も経ったし、せっかく作った「1の部」ももったいないので、東証に持っていこうということになり、書類を提出したら光の速さで上場承認がおり、2005年10月12日に東証マザーズに上場するに至るわけです。
なお上場してからも、すぐに債務超過になったり、買収されかけたり、創業メンバーの借金を肩代わりして自己破産されて代わりに返済し続けたりと、たくさんの事がありましたが、それはまた別の機会に書きます。

上場は良いことなのか

さて、いま私は数社のスタートアップの社外取締役をしており、個人で50社近くにエンジェル投資もしていて、いわゆるスタートアップ村の住人ですが、スタートアップ起業家の方に対しては、上場したければ上場するまで何回もトライすることだと伝えています。
ただ、これが非常に難しい。
買収される方が楽だし、すぐに大きなお金が入るし、途中で業績がダメになることもあるし、上場準備に疲弊して辞めていくメンバーもいるし、何回もトライする気を無くさせる、良いこと悪いこと取り混ぜて、たくさんの脱落ポイントがあります。
そもそも上場したら偉いってこともないし、上場してからの方が大変だし、上場を全面的におすすめなんて全くできませんが、それでも上場したければ、しぶとくやるということしかないかなと思っています。
とはいえ、私自身は上場してよかったかと聞かれれば、やっぱりよかったなと答えています。買収されかけたり、株価が下がってやる気を無くしたり、何度も上場廃止しようかとも思いましたが、やはりやれることの幅も広がるし、人材も取りやすいし、良くも悪くもブランドがついて話の入り口が楽になり、いろんなチャンスを会社でも個人でも得やすいのは本当に体感しています。
いまとなっては決算説明会も株主総会も楽しみになりましたし、応援してくださる方のために頑張ろうと思えるようになりました。
ちなみに、私はなぜかタイミングがなく、上場時に筆頭株主だったのに、いままで一回もキャピタルゲインを得たことがありません。一回借金返済のために300株だけ売ったことがありますが、結局500株を買い戻すことになり、億万長者になることもなく、株はむしろ上場時よりも増えています。
なので、上場してお金を得た経験がないし、債務超過とか色々と経験して、大株主とはいえもはや15%しか株のシェアがなく、資本政策が上手くいったとはいえないけれど、それでも上場して良かったと思っています。

上場をして気になること

そんな中で少し気になっていることを書きます。
上場すると、すごくチヤホヤされるので、自分がまるで偉くなったかのように思ってしまうことです。
もちろん私も、横柄になった部分があるだろうし、偉そうになるだろうし、みんなに教えてやろうみたいな感じになるわけですが、さまざまな外のコミュニティとお付き合いする中で、自分がいかにちっぽけで、まだまだかということを思い知らされることになります。
いま、ITけんぽなんかの母体になったソフトウェア協会の会長をしていますが、初代会長は孫正義さんだし、他にも多くの兆単位の時価総額を維持されている並いる協会内の先輩起業家とお話をしていると、純粋にすごいなと思います。
あと、EOのチャプターの会長も今期やっていますが、規模の大小に関わらずすごい成長率の起業家を垣間見て、私も起業家としてまだまだ成長しなければならないと感じますし、エンジェル投資先の人たちには、お金やメンタリングだけでなく、私自身が事業家としてしっかりと挑戦し、企業を成長させている先輩であり続けることが価値だと思うようになりました。
それ以外にも色々とありますが、たくさんのコミュニティに属する中で、自分の立ち位置を客観視する必要があると感じています。

上場起業家として大切にしたいこと

少し煽るようですが、いま上場している起業家の多くが、私も含めてだらしないなと思っています。
この上場しやすい日本市場で、ちょろっと上場して、数十億、数百億程度の時価総額でチヤホヤされて、安易に満足しちゃってますよね。
いま国では、ユニコーン企業を作ろうという施策をしていますが、上場銘柄のうち1000億円の時価総額を本日時点で上回っているのは4000銘柄中800銘柄程度しかなく、8割近くはロングテールのテールです。当社もその一社です。
そもそも未上場のユニコーン企業を作ることも重要ですが、既に上場している起業家の私たちが、もっと気張って仕事をすべきなのではないかと思います。偉そうにユニコーン創出のメンターとかだけに、うつつ抜かしている場合じゃありません。
ただ、それは難しい事情もよく理解していて、みんなにチヤホヤされて偉くなった気になって、自分の事業に身が入らなかったこともあるし、株価が下がってなんでこんなに頑張らないといけないんだと思ったこともあるし、逆に金銭的に余裕が出てきてハングリー精神も減ってくるし、メンターしていると感謝もされるし、とにかく現状に満足してしまい、引退する気になりそうな、さまざまな落とし穴がいっぱいあるんです。
私自身、2020年には初めての減収になり、会社の立て直しをする中で、本当にもう辞めようかなと思ったこともありました。
そもそも、その前にも何回も辞めようと思った事がありますし、実際に創業時にいちど社長を辞めて、その後復帰した経験もあります。
そんな中で、私はいまだに社長をやっているのですが、社長としていまも最前線を走る上場経営者仲間はどんどん減ってきたのが現実で、正直寂しいです。
もちろん、会社を引退したり経営を任せたりして、次の夢をしっかり見つめている人は素晴らしいなと思いますし、本当に尊敬します。
また、時価総額や売上規模、成長率だけが一律で偉いとも思いませんし、会社を大きくする以上に社会に貢献できることはたくさんあると思います。
でも、それでも上場企業の経営者として残るのならば、会社をしっかり成長させていくべきだし、その中でも何兆円、何十兆円という売上、時価総額といった企業規模を目指す経営者が何人かは居てもいいんじゃないかと思っていて、その一人になりたいと真面目に思っています。
少なくとも、日本の上場企業の時価総額ランキング上位50社の中に、ここ30年の起業家はいません。
孫さんは、なかなか理解されにくい部分もありますが、それでもあれだけの商いをしていることはすごいなと思います。
イーロンマスクもGAFAM(MATANA)の経営者も、利益やキャピタルゲインであれだけのインフラ投資をしていて、羨ましいなと思います。
私自身は、運が良くクラウドベンダーという立ち位置を得られて、それが自分たちが一番やりたいことで、その分野の市場が非常に大きいということから、しっかりと人にも物にも投資をし続けて、より大きく成長し、自分たちがやりたいことをできるに変えられる会社でありたいと思います。
そんな働く場所を残すためにも、頑張って経営をしたいと思います。
そして規模が大きくなれば、クラウドサービスの幅も広げられるし、もっと大きなデータセンターを作れるし、海底光ファイバーも埋められるし、何よりいまの社員やこれからの社員に良い仕事と、良い待遇を提供できます。
経営を続けるのは大変です。そして、何度でも言いますが、チヤホヤされて満足してしまいます。
こういう文書を書いている中でも、自分はよくやれていると勘違いしそうになります。
それでもストイックに、上を目指して、経営を続けられる限り、続けたいと思います。
と言いながらも、もしかしたら何年後かに辞めてしまっているかもしれませんが、その時には改めていまの気持ちを読み返して、その時の気持ちをシェアしたいと思います。
でも、そうならないように頑張ります。
引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

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