【#一日一題 木曜更新】 コーン会議
山陽新聞の「一日一題」が大好きな岡山在住の人間が、勝手に自分の「一日一題」を新聞と同様800字程度で書き、週に1度木曜日に更新します。
ハニーバンダムにゴールドラッシュ、キラキラコーンにミエルコーン。おおもの、きみひめ、甘えん坊、恵味ゴールドにホワイトレディ。彼らは改良に改良を重ねられ、年々甘く瑞々しく美しくなっていきました。そんな彼らがある夜に集まって談話会を開きました。
始まりの挨拶をしたのはホワイトレディ。ミルクかと見まがうようなとろりと艶のある姿で、大きめの粒は果汁をたっぷりたくわえてぷりぷりとかがやいています。ふさふさと蓄えた銀髪は、集まった皆をうっとりさせるほど輝いていました。
「皆さん、お集まりいただいてありがとう。こうやって顔を揃えられるのもおそらく今夜が最後。皆さんの粒は果汁が詰まってぱんぱん。なんて美しいんでしょう。この美しさ、エツコさんが見逃すわけがありません。夕方、畑にきた時のエツコさんの目、見たかしら?わたしの薄い衣をそっとつまんで、粒に触れたかと思ったら満足そうに微笑んだわ。でも、不思議と怖くないのよね……。エツコさんの目が光ったら、明朝だわと決心がつくの。皆さん!抗うことなく、出荷されましょう!」
ホワイトレディの挨拶はまるで演説のようでした。トップバッターにふさわしい勇ましくも気品ある話ぶりに、皆がパチパチと手を叩きました。次に恵味ゴールドが立ち上がりました。
「みなさーん!わたしは…やっと…今年の大通り公園のとうきびワゴンにデビューが決まりました!この日のために、網の上で転がるレッスンを重ねてきました!醤油ダレの焦げ具合のシミュレートもばっちりです。せっかくなら観光客に買われたいけど……地元の人に買われて家に持って帰られて『やっぱり家で食べるとうまくねぇなあ』なんて言われるのもとうきびワゴン冥利に尽きるってもんかな。応援、よろしくお願いします!」
華やかな舞台へ向かう恵味ゴールドの若々しい意気込みに、皆は大喜びで手を叩きました。
その次に、ハニーバンダムがエヘンと咳払いをしながらマイクを持ちました。
「うぉっほん。私たちのつとめは年々変わりつつありますね。かつての役割は子どもたちのおやつでした。がぶりと齧られてね。そしてそれがバターコーンになり、天ぷらになり、近年は炊き込みごはん。炊飯器に寝かされた時はびっくりしましたよねえ。私だけならまだしも、え!芯?!お前も炊かれるの?!って。道産子の定番!って陽気な料理家がヨウツベで言ってたけど、私には寝耳に水でしたよ。浸水だけに。最近はAIがコーンのレシピで『とうもろこしごはん』を挙げてくるらしいから、これも時代。私のような年寄りは甘んじて受けていかなければいけませんな。諸君、健闘を祈ります」
古株らしいハニーバンダムの言葉に、一同しみじみと頷きました。
気がつけば朝日が差し込んでいました。働き者のエツコさんが畑に入ってギョッとしました。ハクビシンかはたまたタヌキか、瑞々しく実り出荷を待っていたコーンは無惨にも食い散らかされていました。