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【#一日一題 木曜更新】 遠い贈り物

山陽新聞の「一日一題」が大好きな岡山在住の人間が、勝手に自分の「一日一題」を新聞と同様800字程度で書き、週に1度木曜日に更新します。ほらいつか岡山在住ライターとして一日一題から依頼が来るかもしれないし……し…? 

一体あの人は、何を贈ったら喜ぶのだろうか。

葛切りが好きだと言っていた気がして、デパートに寄って買い求めたあの日。お茶を淹れながら彼女の前に葛切りを出すと、あらありがと、と素っ気ない言葉と共に食べ始め、おいしいともおいしくないとも言わず、彼女は途中で何も言わずに黒文字を置いた。

またある時は、ガラスの急須を持って会いに行った。さほど高価なものではなかったけれど、あの人が気に入って使っていた急須が割れたのを知っていたから、これなら実用的だし邪魔にもされずに使ってくれるのではないかと期待してクリーム色の箱を差し出した。箱を開けながら、あらありがと、と彼女は聞き慣れた言葉を所在なさげに放つ。そして直後に使ったのはその急須ではなく、長くしまいこんであった古びた急須だった。

子どもの頃は楽しみだった春生まれの彼女への贈り物は、わたしが大人になってからのほんの数年でにわかに恐怖になった。

この3年、ろくに帰省をしていない。
時折家族から送られてくる写真に映る母はまごうことなき老人で、なんだか知らない人に見える。写真の定期便がなければ、もしかしたら私は彼女の顔を忘れてしまうかもしれない。ここ数年で気が付いた自分の非情なまでの薄情さが、友人だけではなく肉親にも当てはまるのだと気がつき、ちょっと動揺した。

お母さん。
あなたには何を贈ったらよいのでしょうか。
何が嬉しいのでしょうか。何が大事なのでしょうか。
あなたにとって、遠くに住む娘は、どんな存在なのでしょうか。

会いに行くべきなのか。それとも、べきなどと思う時点でどうかしているのか。
航空券の決済ページのタイムアウトを繰り返し、わたしは途方に暮れている。


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くにとみゆき(牡蠣ミユキ)
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