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【#一日一題 木曜更新】じゃないほうの真理
山陽新聞の「一日一題」が大好きな岡山在住の人間が、勝手に自分の「一日一題」を新聞と同様800字程度で書き、週に1度木曜日に更新します。
ある男性俳優が言っていたんです。
「キスシーンの時に大事なのは、じゃないほうの手」
例えばこうです。窓辺を背に見つめ合う男女。向かって右に男性、左に女性。カメラワークは男女の膝から上を捉えた引きの形。男性が女性の頬をそっと右手で包む。キスの予感。
さ、この時です。
この時の左手。
左手はどこに置くのか。
ぶらぶらと所在なげになるのが俳優的に最大のNGらしく(もちろん、役柄上OKなときも)、演技を見ている人の視線は頬に添えた右手に集まると知った上で、プロの俳優は一挙手一投足で演技をします。ストーリー上で必要なら、女性の背中や腰に左手を添えて抱き寄せるのが正解なのですが、そうではない時はどうするか。彼の場合は、用のない左手は洋服のポケットをうまく使うらしく、コートのポケットに左手を入れる、パンツのポケットに親指を引っ掛ける。さりげなく、でも格好よく。
彼は実際にその場で左手が遊んでしまったときと、左手にしっかり演技をさせたときの違いを披露してくれました。
なるほどでした。左手の動きひとつで、画のしまり具合が違う……!
彼は若い頃に学んだ殺陣の演技で、その技術の必要性を実感したそう。刀を握った右手を敵に向けた時、緊張感高まる画の中で、何も持っていない左手にどう演技をさせるのか? 画の中心は刀であっても、刀を持った右手に迫力を与えるのは、右手以外の身体全体の動き、特に対極にある左手は重要だと。ははあああ。
それを聞いてから、私が長らく続けているダンスフィットネスのインストラクターの「じゃないほう」の手足に目が行くようになりました。
「はい!右にーー!」とキューを出しながら右に大きく伸びた右手の反対側。さて左手の位置はいかに。わーお……! インストラクターさんは大勢いるので動きは千差万別なのですが、日ごろから動きがきれいだと思っていた人は、「じゃないほう」の手足の位置がかっちりとキマッているのでした。
じゃないほうの動きが本筋の動きを高めるのね。と今更。
こういうこと、いい大人なので頭のどこかでわかっていたはずなんですが、体現されているものを見るとオノレの生き方を振り返る機会になりますね。
じゃないほうは、あくまでもじゃないほう。
鍛えた上で、徹底的に表に出さないほうが画的にサマになるのは間違いない。小物であればあるほど、じゃないほうを匂わせてアピールするねと、自省の日々なのでありました。すん。
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