アイス半額劇場
私は冷凍ケースの前でしばし立ち止まる。
「ノベルティアイスクリーム全品半額 ※プレミアムアイスは除きます」
ノベルティアイスクリームって何だっけ?と考えながら私は陳列を眺めた。ああ、こういうことかとラインナップを見て納得する。
雪見だいふく、ピノ、パルム、チョコモナカジャンボ…。ノベルティって「おまけ」って意味だけじゃないのか。そしてその場でググって確認。ほう。「メーカー独自の商品」なるほど、知識がひとつ増えた。
対して半額除外の「プレミアムアイス」はハーゲンダッツなどの高級品。
私の横で、幼稚園帰りらしき親子が可愛らしいおしゃべりを。
「えー、半額!みーちゃん、どれがええ?」
「えー!いいの?いいの?昨日もアイス食べとるよママ」
「安いからね、とくべつ」
「いつもは日曜だけって」
「ほら、もう時間ないが。選んで」
「えー!えー!」
「みー、パパのも選んどって」
「パパはこれが好きなんよ」
いつもの約束を「半額」で簡単に覆すこんなママが大好きだ。ねえねえ、子育てなんてそれくらいじゃないとねえ。
昔々、遊園地に一緒に行ったママ友さんは、最後に乗ったアトラクションの中で息子さんに歯磨きし始めたっけ。
理由は、「帰りの車で絶対寝ちゃうから」
ほーか。
こんなに遅くまで屋外で遊んだら、車からベッドに直行ですよね。虫歯、心配ですものね。うん。
あ、なんかトリップしてた。
元気かな、あのママさん。子育てに疲れてなきゃいいけど。
大事そうに三つのアイスを選んだ親子を見送ったあと、アイスどうしようかなあとぐずぐず悩んでいたら、またひとり、初老の男性が私の横に。
と、思ったらじーさんは瞬殺の勢いでジャイアントコーン10個(くらい)をつかみ取り、カゴへ放り込む! そしてレジへ向かう…と思ったら、踵を返したー!
一瞬ケースの中を鋭い目つきで睨みつけ、再び中に手を伸ばしあずきバーを10本(くらい)瞬く間にカゴに…!
そしてじーさんは、ソッコーでレジへ。
うん、アイスを選んだあとはマゴマゴしてちゃいけねえな。
きっと、
「ちょっとお父さんお父さん、きむらでアイスクリーム半額よ。ほら、カンちゃん(孫)の好きなジャイアントコーン買ってきてちょうだい。だって70円だもの。え?自分で行けって?いいじゃないの、ヒマなんでしょう。車でさっと行ってきてちょうだいよ」
で、じーさんはカワイイ孫のためならって。ジャイアントコーンを買いにきたんだよね。ほら、ジイバアって孫が一度でも「これスキー!」って言うと、延々と同じもの買っておいてくれるよね。
あずきバーはねえ、きっとじーさんの連れ合いの好物。孫のことだけじゃなく、あ、ばーさんコレ好きだなって思い出したじーさん、アンタえらいよ。(※妄想です)
そういえば、さ。
おばあちゃん、いつまでも「ミユキは炊き込みご飯が好き」って思い込んでて、おばあちゃんから届くチルド配送の荷物の中には、毎回必ず手製の炊き込みご飯が入ってた。
おばあちゃんは年を取って舌の感覚が鈍ってきたのか、味付けがだんだんおかしくなってきて、最後の方はもうほとんど味のしない炊き込みご飯だったっけ。
それでも、ご飯のタッパーが入っているとホッとしたねえ。
あれ、涙が…(スーパーきむら店内)
何やってんだ、わたしは。
気を取り直して、再び半額になっているアイスの陳列棚をのぞき込む。
いつも子どもたちには、自宅から徒歩1分のドラッグストアで「常に78円」のノベルティアイスクリームを買っている。
「常に78円」ってすごくないか。スーパーカップもクーリッシュもいつも78円。おかげでコンビニで同じ商品を見ても、高額に見えてしまう罠。
ただ、安いだけに新発売や珍しいメーカーのものは置いていない。有名メーカーの定番品で、ガリガリくんは常にソーダ味のみ、クーリッシュはバニラ一択。
おそらく「毎月これだけ買うから仕入れ値を安く」みたいな商取引があるんだろう。
息子の好物はスーパーカップのチョコクッキーで、幸いなことに78円のラインナップに入っている。
彼の「スーパーカップチョコクッキー味への愛」は相当なもの。似たようなフレーバーのサーティワンやハーゲンダッツを食べても、「やっぱりオレはスーパーカップが好きだ」とぼやくのだ。
今日の半額アイスのケースの中は、ドラッグストアにはない商品で溢れていた。
ガリガリくんはコーラ味もあるし、やわもちはなんと三種類、クーリッシュは期間限定のベルギーチョコもあるではないか。感激。
何にしようかな。
半額アイスが並ぶ陳列ケースの前で嬉しそうに悩む息子が目に浮かぶ。
彼はさんざん迷ったあげく、結局いつものそれをニコニコしながら手に取るんだろう。
愛しいルーティン。
私は迷わず、スーパーカップチョコクッキーをカゴに入れた。