米国11月雇用統計と金利、株式市場への示唆
【今回のまとめ】
先週末発表の米国の11月雇用統計は比較的堅調な結果となったものの、全体的には労働市場の減速傾向を示すものとなった。
雇用統計を受けて、12月FOMCでの利下げ期待がさらに高まるとともに、国債利回りも若干低下、今後も米国債利回りの上昇圧力は徐々に緩和されていくものと思われる。
米国企業業績は比較的堅調であり、今後も労働市場が緩やかに減速し、政策金利も段階的に引き下げられ、米国債利回りも安定推移となるようであれば、株式市場にとっては悪くない環境と思われる。
1.米国の11月雇用統計
先週末12月6日(金)に発表された米国11月の雇用統計(速報値、季節調整済み)は、非農業部門の就業者数が前月比22万7000人増となり、先月から大幅に改善するとともに、市場予想の20万人増を上回る結果となりました。先月10月の数字も当初の1万2000人増から3万6000人増に上方改定され、9月・10月の上方改定の合計は5万6000人となりました。引き続き医療関係や娯楽、接客業などのサービス関連を中心に雇用が伸びている状況です。
一方、失業率は4.2%となり、市場予想と一致しましたが、前回10月の4.1%から0.1%上昇しました。また、平均時給は前年比+4.0%、前月比+0.4%といずれも前月と同じとなり、市場予想の+3.9%、+0.3%をそれぞれ上回る結果となりました(図1)。
出所:Bureau of Labor Statisticsデータ、および各種市場予想情報より作成
過去3か月(9月分~今回11月分)の雇用統計の動向を簡単におさらいしますと、9月は25万5000人増とサービス業中心に良好で事前予想も大きく上回ったことで、米国経済は「ソフトランディングどころか、ノーランディングだ(減速せず再加速していく)」という見方が出るほどでしたが、10月は逆に1万2000人増(改定前)と事前予想を大きく下回り、ネガティブ・サプライズとなりました。ただし、これには2つのハリケーン(へリーンとミルトン)とボーイングのストライキなどの影響が含まれていたため、今回の雇用統計では改善する(20万人増予想)ことが見込まれていたものです。
ただ、この9~11月の非農業部門雇用者数(前月比)の平均値について、FRBによる利上げ開始前の21年9~11月に遡って毎年同時期の平均値を見てみますと、徐々に減少してきており(図2)、やはり利上げの影響は着実に出てきているものと見受けられます。また失業率が切り上がってきていることも引き続き景気後退局面入りの可能性が懸念されるところです。
出所:Bureau of Labor Statisticsデータ、および株式マーケットデータ情報より作成
また、11月の総労働人口が10月の168,479千人から168,286千人へと19万3000人減少し、2か月連続の減少となりましたが、これは移民政策の強化による影響の可能性も指摘されており、気になるところです。さらに、フルタイム労働者の前年比伸び率は今回の雇用統計でもマイナスとなり、これで10か月連続マイナスとなりましたが、フルタイム労働者の伸びが2か月以上続けて前年比マイナスになると景気後退入りしやすいため、こちらも引き続き警戒されるところです(図3。1970年以降、フルタイム労働者の伸びが前年比2か月以上マイナスとなったのは過去9回ありますが、このうち、8回で景気後退入りしました。唯一、図3の⑧だけ、リーマンショック以降の大幅な金融緩和に支えられて景気後退入りしませんでした)。
出所:Bureau of Labor Statisticsデータより作成
2. 雇用統計を受けて
(1) FRBの金融政策運営への市場の織り込み
以上から、今回の雇用統計では非農業部門雇用者数は市場予想を上回ったものの、全体として労働市場の減速傾向は変わらないとの受け止めから、12月17-18日のFOMCにおける市場の利下げ期待は雇用統計発表前よりも高まり(利下げ確率は67%程度⇒86%程度へ)、0.25%の利下げがほぼ織り込まれました。一方で、来年1月28-29日のFOMCでは金利据え置き予想がさらに増え、その次の3月18-19日のFOMCで、もう一段の利下げ(0.25%)への織り込みが50%を超えるなど、今回の雇用統計を受けて、FRBの当面の政策運営に関する市場の織り込みがさらに進んだ形となりました。
(2) 米国債利回り
また、雇用統計を受けて国債利回りも長期、短期ともに若干低下し、10年国債利回りは4.15%、2年国債利回りは4.10%での推移となっています。米国債利回りについては、足元の米国景気が比較的堅調であることや、トランプ氏による関税引き上げによるインフレ圧力や減税による財政負担拡大への懸念などもあり、利回りが下がりにくい状況が続く可能性はありますが、それでもファンダメンタルズ面からは、米国債利回りの上昇圧力は少しずつ緩和していき、現状水準~3%台後半辺りで比較的安定して推移していくのではないかと思われます。
出所:TRADING ECONOMICSより作成
(3) 株式市場への示唆
今回の11月雇用統計は、引き続き医療関連、サービス関連中心に雇用が伸びており、ISMやPMIの非製造業指数が50を上回って推移していること(非製造業の景況感は依然として良好)と、ある程度整合的な内容ではあったものの、全体として雇用の伸びが減速傾向にあることは変わらず、失業率も切り上がり、フルタイム労働者の前年比マイナスや総労働人口の減少も見られるなど、懸念材料も少なくないことから、次回FOMCでの利下げ見通しを正当化するような内容となり、米国債利回りも若干低下しました。
現状、米国企業の第3四半期決算発表がほぼ終了しましたが、S&P500採用企業の収益は前年同期比で+5.0%程度の伸びと、決して高くはないものの堅調な伸びとなっており、また、第4四半期は+12%程度の収益成長予想(コンセンサス予想)、同様に2025年度通年では+14%程度の収益成長予想と、2ケタ収益成長が予想されていますが(FACTSET EARNINGS INSIGHT December 6, 2024レポートより)、このような業績環境の中で、労働市場が緩やかに減速し、政策金利も(景気後退を受けた急速な引き下げではなく)緩やかに段階的に引き下げられ、米国債利回りの上昇圧力も緩やかに緩和に向かうような動き(いわゆる、景気のソフトランディング的な動き)は株式市場にとっては決して悪い環境ではないものと思われます。
従って、トランプ氏の返り咲きに絡む様々なニュースフローがしばらく続きますが、市場参加者としては、いろいろなノイズに振り回されることなく、楽観的にも悲観的にもなり過ぎず、落ち着いて個別企業の成長性やバリュエーションなどを見極めつつ、銘柄分散(リスク分散)しながら、投資していくのが良いかと思います。
以上、簡単ですが、今回は11月の雇用統計や金利、株式市場への示唆をまとめてみました。
(実際の投資に際しては、自身のご判断でよろしくお願いします。)
以 上