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【アーカイブ】「必殺」の亜流であって亜流でなし! 「影同心」③

「影同心」が「必殺」シリーズと決定的に異なるもうひとつの大きな点は、”影の刺客”3人を束ねる所謂「元締」的な役割を果たすのが、江戸の庶民から”妖怪””マムシ”と言われた南町奉行・鳥居耀蔵(田村高廣)だということです。田村高廣さんは「必殺」シリーズ第3作「助け人走る」(73~74年)で主役を演じられていたのは、ご存知の方も多いでしょう。

鳥居甲斐守(田村高廣)

実は「必殺」シリーズでの鳥居耀蔵は、殺し屋たちの前に立ち塞がる外道たちの親玉という役どころで、完全な悪役キャラなのです。
「必殺」シリーズに鳥居耀蔵が初登場するのは、第6作「必殺仕置屋稼業」(1975~76年)第21話「一筆啓上逆夢が見えた」。鳥居に扮したのは名優・志村喬さん。この時の鳥居は、出番はわずかながら貫禄あふれる好々爺といった風情で、「影同心」での田村高廣さんのその後、と言えなくもないかもしれません。
そして、これぞ「必殺」版鳥居耀蔵の決定打といえるのが、第8作「必殺からくり人」(76年)第12話「鳩に豆鉄砲をどうぞ」。このエピソードで、緒形拳さん扮するからくり人夢屋時次郎は、自分の許婚者と瓜二つの女郎しぐれ(赤座美代子)の腹痛を治療した蘭方医・小関三英が「蛮社の獄」のあおりを受け自害したことを知り、「蛮社の獄」の黒幕である鳥居耀蔵を狙うのですが…そこで鳥居として現れるのが、知る人ぞ知る戦後昭和の名優のひとり・岸田森さん。”マムシ””妖怪”と仇名された酷薄な権力者キャラクターを見事に体現していましたが、岸田森さんはこの前にも「天下堂々」(NHK、73~74年)や勝新太郎主演の「痛快! 河内山宗俊」(CX、75~76年)でも鳥居耀蔵を演じており、手馴れた芝居だったのもしれません。

「必殺仕置屋稼業」(1975~76年)第21話「一筆啓上逆夢が見えた」の鳥居甲斐守(岸田森)。
ご丁寧に人物紹介のテロップまで付けられています

「必殺」シリーズでは、その後もレギュラー枠終了後始まった単発スペシャル第17弾「必殺スペシャル・秋! 仕事人vsオール江戸警察」(90年)にて、中村主水(藤田まこと)たちの前に立ち塞がる最大の敵が鳥居耀蔵。演じていたのはこちらも戦後昭和の名優・米倉斉加年さんでした。

鳥居耀蔵の話はひとまずここまでとして、余談をふたつみっつ。
劇中金子さんの妻を演じた丹阿弥谷津子さんは、実生活でも金子信雄夫人でしたが、このドラマでは「必殺」で中村主水をイビる妻姑=中村りつ(白木万理)と中村せん(菅井きん)を足したような役どころで、主要登場人物中最も「必殺」っぽい雰囲気を体現しています。

柳田周江(丹阿弥谷津子)

そして、モチーフとなった中村主水も、平成に入ってシリーズの区切りとして作られた映画『必殺! 主水死す』(96年)で仕事仲間のおけい(東ちづる)と愛人関係にある描写が用意されていました。

映画『必殺! 主水死す』(96年)DVDのジャケット画像

ただそれは、今回取り上げる「影同心」の柳田茂左衛門とお佐知の関係とは異なり、主水とおけいは同志であり、おけいと主水の対する感情も愛情や色気ではなく、彼の素性に対する同情や憐憫から惰性で情を交わしてる雰囲気でしたね。そしてこのおけいに扮した東ちづるさん、金子信雄さんとお料理番組で名パートナーぶりを発揮していたのは、ご存知の方も多いでしょう。
他にも当時のブルース・リー(李小龍)ブームを体現するかのように、鍛え上げた上半身で木製のヌンチャクを振り回す下っ引きの源太役で、実際に武道を修め後に東映制作の特撮ドラマ「忍者キャプター」(76~77年)でも活躍する林大興さんや、前述のように「必殺」シリーズで中村主水をイビりまくるを好演していた菅井きんさんが、「影同心」では金にうるさい業突く張りの老婆という「必殺」での武家の姑とは全く異なる役を楽しそうに演じているのも非常に印象的です。(この項おわり)

おとら(菅井きん)

※本稿は、SNS「mixi」コミュニティへ2014年7月寄稿した内容を加筆・修正したものです。

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