ブレンダ・ソング主演『カンフー・プリンセス ウェンディ・ウー』②
『カンフー・プリンセス ウェンディ・ウー』(2006年)の主人公は、学園祭でクイーンになることを夢見るイマドキの女子高生。この設定がドラマに大きな奧行きを加えているのは明白です。香港を本場とするカンフー映画や武侠ファンタジーの潮流を汲みながら、本作にはハリウッド=アメリカ映画が連綿と作り続けてきた若者やファミリー向けの人気ジャンル、つまりガーリー・ムービーや学園ドラマだったり、家族や兄弟間の愛情や交流、その間のジェネレーション&カルチャーギャップを描いた数々のコメディー要素が満載なのです。
特に学園ドラマの部分に関しては、本作のアクション監督を務めた坂本浩一監督が帰国後メイン監督として撮影した特撮ドラマに受け継がれる形となりました。平成仮面ライダーシリーズ第13作で仮面ライダーシリーズ40周年記念作品として制作された「仮面ライダーフォーゼ」(2011~12年)です。
アメリカナイズされたスクールカーストが存在する「天ノ川学園高校」の設定や描写は、当初ジョン・ヒューズ監督作品がモチーフと言われました。実際それはあったと思うのですが、よりダイレクトな影響というのは、「フォーゼ」の5年前に坂本監督が参加した本作から受けたように感じられます。でなければ吉沢亮さん扮する2号ライダーのメテオがジークンドーの使い手という、いささか突飛な設定が腑に落ちてこないのです。本作で徹底的にジャッキー・チェン風のアクションやスタントをやり切った代わり、「フォーゼ」でブルース・リー(李小龍)を取り入れるなら、合点がいきます。
また本作はトリッキーなアクション描写や多彩なコメディー要素のみならず、センシティブなメッセージもドラマのなかにしっかりと織り込まれています。それは「アメリカ人として生きる中国人のアイデンティティとルーツ」にまつわるエピソードです。主人公ウェンディ・ウーの一家は中国系の3世代家族で、中国で生まれ育った祖母(ツァイ・チン)を除いてアメリカで生まれ育ち普通に英語を話し、しかもチャイナタウンに居を構えるようなステレオタイプではなく、それなりに裕福で完全に白人社会へ溶け込んでいます。しかし突如中国からウェンディの守護者として闖入してきたシェン(『ラスト・サムライ』で準主役を演じた小山田真さん)の存在によって、ウェンディのみならず弟や両親までが、それまで蔑ろにしてきた祖母の故郷である中国の歴史や自分たちのルーツへ想いを馳せるようになり、意識を変えていくのです。シェンとウェンディの一家が中国の伝統的な菓子である月餅を食べる場面はその象徴といえる印象的なシーンです。
何より、ウェンディ自身がシェンと行動を共にすることで、苦手だった中国の歴史に関する知識を得るとともに”陰の戦士”としての意識に目覚め、差別意識を呼込むスクールカーストにも正面から向き合い、夢見る少女から大人の女性として一歩階段を上り、シェンもまた異国での無邪気なウェンディとの邂逅により、旧い因習から逃れ新たな人生の扉を自ら開く…男女ふたりの若者の成長譚としても非常に優れた仕上がりになっています。
「ディズニー・チャンネル・オリジナル・ムービー」として、日本を始めイギリスやヨーロッパでのディズニー・チャンネルで歴代最高視聴率を記録したという本作は、当然続編の企画も持ち上がったようですが、現在に至るまで実現はしていません。
しかしその後多数作られた「ディズニー・チャンネル・オリジナル・ムービー」のクラシック作品として、本作は現在もディズニー・チャンネルでリピートされることがありますし、ディズニー公式動画配信サービス「Disney+(ディズニープラス)」でも視聴が可能となっています。(この項おわり)