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ワールド音響の至所

立体音響が流行りです。この波はもう少し続くと思います。空間オーディオ、いいですよね。全周方向から聞こえるサウンドが魅力的です。今まで聞く音と比べるとライブ感あって好きです。はて、立体音響って何なんでしょう?考えてみましょう。


立体音響とは

立体音響って実はたくさんの種類があって様々な試行がされています。今皆さんが聞いている音って、何十年も試みがあって聞いてるんです。なので今後も変わっていくんだろうと思います。

まずはその歴史について

その始まりは割と古く1881年のパリ万国博覧会のバイノーラル録音に遡ります。その理論を提唱されていたものの、大きく注目されたのが1933年のシカゴ万博において展示されたみなさまおなじみのベル研がつくったダミーヘッドから立体音響が始まりました。そののち70~80年代における生音録音のブームがありました。バイノーラル録音が実装されたのもこの時期からですね。その後、ダミーヘッドがたくさんのメーカーから出て、今に収まっています。今一番皆さんが使いたがるダミーヘッドはどれでしょうか?ノイマンですかね?あれで撮った音はバイノーラルではいい音だと思います。もしくはASMRマイクなんてものを使うこともあるでしょう。実はテクニクスも出していたのです。驚きですね。

立体音響とは

立体音響とは空間に定位させることを言います。定位というのはどの場所にあるかということです。あんまりそれについて難しく考える必要はなくて、”こっち方向から音が聞こえるね”とかそれでOKです。音をやってる人は定位という言葉を使いますが、結局どこに音源がいるのかっていうことを小難しく言っているだけです。ということで、立体音響なのですが、名前の通り立体的に聞こえる音を示しています。
通常のCD音源を聞いてみましょう。さて、どっち方向から聞こえますか?多分ボーカルの声は頭の中心くらいに定位するはずです。もしくはギターの音が左から聞こえるなとか思うはずです。そう聞こえたのであればいい耳だと思います。もしCDを聞いて、あれ?外の方から聞こえるな?とか思ったらちょっと耳を疑ってください。でもYouTubeの音を聴いたときに”この音は前から聞こえるな”とか”この音は左から聞こえるな”と思った方が少なからずおられると思います。これは完全な錯覚です。細かくいうと音は視覚情報を優先するのでおおむね15°程度の定位差であれば視覚情報が優位に立つように人間は知覚するので間違ってないです。でも実際には立体でなければ前から音が聞こえることはないので集中して聞いてみましょう。
では立体音響の話をしていくと、そのまま前後や左右から音が聞こえてきます。これを総じて立体音響と呼びます。仰角方向に関してはあんまり定位しないのですが、上か下かくらいはわかるかもしれません(前後はほぼ定位しません)ではこれについて考えてみましょう。

位相差

先ほど、上下前後は定位しにくいようなことを言いました。これは位相差の話ががっつり紐づいてますので説明していきましょうね。

引用:TDK テクノ雑学より

上の絵を見てください。これが実際の正体なので先に明示しておきましょう。音源が全面にいたとしましょう。これが両耳に全く同じ音が入ればこれはステレオなので立体的に聞こえません。

-あれ?スピーカーから離れてるんだからこれは前から聞こえるよね?-

そう思った方。鋭いです。もちろん実際には前から聞こえます。でも原理はステレオなので小難しい説明を加えてみましょう。音源の音をイヤホンで聞いてみましょう。そうすると頭の中央から聞こえてくるんです。つまりステレオです。前に定位するためにはとある要素が欠けています。その答えが”空間”になります。単純な立方体の部屋に入ったとしても前から必ず定位します。視覚情報があると邪魔なのでここでは目を瞑った状態で話していきましょう。前から出た音は実は耳に直接届いているわけではないんですね。耳に聞こえてくる音にはエコーがかかっています。どこかに反射して数ミリ秒遅れて同じ音が少し減衰して聞こえます。もう少しひも解くと、左の壁に反射した音は左の耳だけから聞こえるんでしょうか。答えは×です。左の壁に反射した音には左に一回反射した音とその音がさらに右の壁に反射した音があって、それがさらに…と続いて結果の音が皆さんの耳に入ってきます。これが前に定位する理由ですね。完全拡散音場と自由音場の場合は前の定位が出ないはずなので頼りにするのは音量と周波数特性になります。皆さんがイヤホンで聞いている音は自由音場的なサウンドになります。完全拡散音場とは少し違うので聞き比べるといいと思います。キーになるのは拡散音場かな?空間オーディオには拡散音場という言葉が欠かせないので調べてみるといいと思います。空間オーディオというのはまた面倒な名前が出てきました。ここでは立体音響という名称を使うことにしましょう。
さて上の図の真ん中を見てください。少しスピーカーから右にずれてみます。そうすると音源が少し左に行ったと思います。立体音響では重要で、耳とスピーカーの距離が左右の耳で違います。音のスピードは340m/sですから距離が違うとn/340分音が聞こえてくるタイミングが変わります。タイミングが変わるということはどういうことでしょうか。同じタイミングに聞く音が左右で異なるんです。これを専門的に言うと”経路差”とか”位相差”なんて言葉を使います。この仕組みによって立体的に聴くことができます。
あれ?上下だったら距離が変わらないじゃん。と思う方がいると思います。その通り、距離が変わりません。つまり定位しないことになります。前後左右に音源を動かしても実は定位が出ません。

頭部伝達関数

では前後を判断する基準は何なんでしょうか。

引用:ヤマハサウンドシステム 人はどうやって音の方向を感じるの? より

上に示したのが答えになりますがよくわからないのでかみ砕いていきましょう。正面から聞こえる音は耳に入ると同時に今度は顔に反射します。顔が全く平面なんて方はおられませんね。X方向に対してY方向の数字が変わってきます。つまり、距離がだんだんと変わっていくわけですね。その結果として経路差ができて、これが前に定位するうえで非常に重要になります。逆に嘘路に定位するためには同じくX方向の差に対してY方向の数字が変わっていきます。ただ画像を見ると耳の後ろで線が変な曲がり方をしていますね。これが”耳”なんです。耳ってすごいです。これで経路差を出すことによって前後の定位の手助けをしてくれているんですね。上下方向も同じことが言えますが上下はこれほど簡単ではないので前後方向だけにしておきましょう。このX方向に合わせてY方向が変わっていく、それで経路差が生まれること。これを”頭部伝達関数”と呼びます。実際にどれくらい変わるのかを次の画像で説明していきます。

引用:leftbank MATLABでHRTF~頭部伝達関数とは?~聴覚の仕組みは解明されていない~

0が目の前から聞いた時の音になります。対して180が後ろから聞いた音になります。これは経路差の話なのですが周波数軸の話から入っていきましょう。まず0のグラフに注目してみてください。そのあと180のグラフを見てみてください。ほんの少しだけですがグラフに変化が見えました。特に高音の特性が変わります。さて、ここで考えなければいけないのが”空気減衰”という話になります。20kHzあたりで大きな谷があると思います。これが非常に重要なんですね。音のエネルギーは低音程大きく高音はエネルギーが小さいので空気で音が消えてしまいます。なので後ろから音が聞こえるときは経路が前から聞くのに比べて長くなるので距離があるってことは減衰するための距離が長くなるので高音は消されてしまって低い音の成分が強調されて聞こえてしまう。ということになります。ちなみに難しく考えてしまうと、なんで高音がなくなると後ろに聞こえるのか。という疑問を考え始めてしまいます。結論を先に言うと、人の耳の経験から来ているのが正解です。なので若ければ若いほど前後の音は聞き分けにくいです。すごーく雑に説明していますが。これが前後方向を決める値になります。

立体音響の実装

さて、ここまでは音の仕組みを話していきました。ではやっと立体音響の話をしていきましょう。今までは音が外にあった時にどういう音が空間として認知されるのかを雑にまとめてきました。次に立体音響のコンテンツを作るには??という話をしましょう。
今までの話の通り、経路差を作ってあげることである程度の立体音響を作ることができます。でもこれでは空間で録音した音を空間で全く同じ音として鳴らすことができないんですね。ということで最新の立体音響の世界の話をしていきましょう。

引用:NNT研 客席まで飛び出す音響を実現する波面合成音響技術 

点音源からなった音はこういう波で伝わります。これが実音場の音としましょう。次に録音した音をスピーカーから鳴らしてみましょう。

おや、音の形が違いますね。二つのスピーカーから鳴らすとこのように二つの点音源が鳴るのでどうしてもこのような波形になってしまいます。これをどうするのか?というと

上図のようにスピーカーの音をうまく合わせることができればある点については一枚目の画像と全く波の形が再現できることになります。つまり、同じ波ということは同じ音が聞こえると考えることができますね。これが今の立体音響のホットな話題になります。これは簡単な平面上での画像ですが立体的にこの音を組み合わせるところまで現在は研究が進んでいます。将来的にはこれが実装されるのかな?と思っています。

おわりだよ!

ちょっと難しい話をしたのでこの辺で終わらせておきましょう。筆者は実際この概念を使ってVR空間上で音を再現する実験を行っています。それには様々な指標というものがあって、その数字を考えながら決めていくのですがそれぞれの意味が分からなければ立体音響を組むことはできませんし、さらに言えばそれを判断するための”耳”が必要になります。ほぼほぼ理論的な話になりますが、この理論がある程度VR空間においては再現が可能なくらいには技術的に成熟してきています。
音響エンジニアは提供されたフォーマットに沿って音を導きだしているので現実社会で音を作るよりはるかに大変です。それこそ、的確な信号処理をかけることができればこれに越したことないのですが、信号処理の中身はまだまだブラックボックスなので今あるパラメータでそれぞれの音を再現していくことになります。
ということで立体音響の仕組みについてちょっとだけ話しました。
ちょっと難しかったかな?専門学校でもここまでは教えてくれないのであんまり難しいようであれば理解しようと努力する必要はないかなーと思います。

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