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【今日の1問】刑法(13)|詐欺罪

今日は「令和5年司法試験 刑法〔設問1〕」を解いてみるぞ!

(問題文)
https://www.moj.go.jp/content/001415897.pdf#page=2


(答案例)

第1 設問1について

1 小問⑴について

⑴ 詐欺未遂罪(250条、246条1項)の成立が認められるには、「犯罪の実行に着手」(43条本文)したことが必要である。
 そして、詐欺罪は「人を欺いて財物を交付させ」るという手段・態様を限定した犯罪であるから、「人を欺」くという詐欺罪の実行行為は、「財物を交付させ」ることに向けられたものでなければならない。そうすると、詐欺罪の実行の着手には、「現金の交付を求める文言を述べること」を要するということになりそうである。
⑵ しかし、実行の着手は構成要件的結果発生の現実的危険を有する行為が開始された時に認められる。そして、段階を踏んで嘘を重ねながら現金を交付させるという犯行計画の場合、現金の交付を求める文言が用いられなくても、構成要件的結果発生の現実的危険性、すなわち、相手方を錯誤に陥らせて「財物を交付」させる現実的危険性は発生する。
 したがって、詐欺罪の実行の着手に「現金の交付を求める文言を述べること」を要しない。
⑶ よって、現金の交付を求める文言を述べていなくても、Aを錯誤に陥らせて現金を交付させる現実的危険性(以下「本件危険性」という。)を発生させる行為が開始されれば、甲に詐欺未遂罪の成立が認められる。

2 小問⑵について

⑴ 本件についてみると、甲が、現金をだまし取る対象者としてAを選び(①)、警察官に成りすましてAに1回目の電話をした(②)時点では、甲が警察官であるとの錯誤に陥れる行為がなされている。しかし、これは甲がする今後の指示を信用させるものにとどまるから、未だ本件危険性は発生していない。
⑵ その翌日、甲が2回目の電話をした(③)時点では、現金を引き出して自宅に持ち帰る必要であるとの錯誤に陥れる行為がなされ、現にAが現金を引き出して自宅に持ち帰っている(④)。しかし、これは財物の交付に向けた準備行為を促したものにとどまるから、未だ本件危険性は発生していない。
⑶ その後、Aからの電話で④の事実を確認した甲が、Aに「これから警察官がそちらに向かいます。」とうそを言った(⑤)時点では、実際に警察官を装った乙らがA宅を訪ね、現金の交付を求めることになっており、社会通念上、乙らの求めに応じてAが即座に現金を交付してしまう危険性を生じさせたといえる。したがって、⑤のうそは本件危険性を発生させる行為といえる。
⑷ よって、⑤の時点で実行の着手を認めることになる。


(出題趣旨)
https://www.moj.go.jp/content/001415935.pdf#page=14

(採点実感)
https://www.moj.go.jp/content/001408693.pdf#page=1


最判平成30年03月22日:

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