M3 Macがハズレといわれる理由
M4がリリースされた時点でM3の性能について質問された話を、今回はnoteに簡単にまとめておきます。
この話の背景には、具体的にどのような技術的な理由があるのでしょうか。実データを基に詳しく解説していきます。
M3 Macは別にハズレではない
結論を先に書いておくと、M3チップ自体はハズレではありません。
ただM3 Proチップのコア構成がM1, M2そしてM4と比べても性能があがらないので、円安も合わさってM3 ProチップのMacのコストパフォーマンスは悪く、ハズレと感じる人も一定数います。
CPUコアの種類
Apple Siliconチップだけでなく、IntelやAMDなど最近の多くのCPUでは、2種類のプロセッサコアを組み合わせたハイブリッド構成を採用しています。
高性能コア(Performance Core)
最大限の処理性能を発揮するために設計
複雑な計算や重たい処理を高速に実行
電力消費は比較的大きい
動画編集、コンパイル、3Dレンダリングなどの負荷の高いタスクに使用
効率コア(Efficiency Core)
省電力性能を重視して設計
基本的な処理や軽いタスクを担当
電力消費を抑えながら動作
メール確認、文書作成、バックグラウンドタスクなどに最適
この2種類のコアを組み合わせることで、必要な時には高い処理性能を発揮し、通常使用時は省電力で動作するという柔軟な性能特性を実現しています。
コア数だけでは性能が分からない
さて「10コアのCPU」と「12コアのCPU」と聞いたとき、どちらが性能が上だと思いますか?
数年前までであれば迷わず「12コアのCPU」と答えたいたことでしょう。
しかし、先ほどもあったように昨今のCPUは2種類のコアの組み合わせで成り立っています。
10コアと12コアのコア構成が以下のようだったら、どちらが性能が上だと思いますか?
10コア
高性能コア(4GHz) x 8
効率コア(2GHz) x 2
12コア
高性能コア(4GHz) x 2
効率コア(2GHz) x 10
これは極端な例ではありますが、10コアの方が高性能コアが多いため、多くの場面では10コアの方が性能が良いと言えます。
昨今のCPUではコア数だけで性能を測ることは難しいといって良いでしょう。
M3 Proの仕様変更
M3 Proで注目すべき変更点は以下の通りです。
プロセスの進化 … N5P → N3B
クロック周波数の向上 … 3.50GHz → 4.06GHz
GPUコア数の減少 … 19 → 18
コア構成の変更
M2 Pro … 高性能コア6-8個 + 効率コア4個
M3 Pro … 高性能コア5-6個 + 効率コア6個
さて、ここまで見て違和感を感じるでしょうか?
一見すると、プロセスとクロック周波数の向上により、大幅な性能向上が期待できそうに見えます。
しかし、実際のベンチマーク結果を見てみると、残念な結果があらわれます。
Cinebench 2024のベンチマーク結果
シングルコアでの向上率は、約16%となっており、クロック周波数の性能向上から見た通りになっていますね。
M2 Pro … 122ポイント
M3 Pro … 142ポイント
そう問題はマルチコアでの向上率です。
以下を見てもらえると通り、約3%程度しか向上していません。
M2 Pro:1025ポイント
M3 Pro:1059ポイント
なぜ「ハズレ」と評価されるのか
それでは、これらの結果をふまえて「ハズレ」といわれる理由について振り返りましょう。
1. マルチコア性能の伸び悩み
プロセスの進化とクロック周波数の向上にも関わらず、マルチコア性能の向上がわずか3%に留まっています。
これは特に以下の点で問題となります。
Proモデルのターゲットユーザー(動画編集者、開発者など)はマルチコア性能を重視
前世代と比較して実質的な性能向上を感じにくい
新プロセス採用による価格上昇を正当化できない
2. コア構成の最適化ミス?
高性能コアを減らし、効率コアを増やすという選択は、以下の観点で疑問が残ります。
プロフェッショナル向けモデルでの効率重視の是非
マルチコア性能向上の機会損失
M3 Maxチップを買ってほしかったのかな?と勘ぐってしまうような構成ですよね。
3. コストパフォーマンスの低下
新プロセス(N3B)の採用により製造コストは上昇していますが、以下の要因でコストに見合う価値を提供できていません。
マルチコア性能の向上がわずか
GPUコア数の減少
実質的な性能向上が限定的
円安での販売価格と見合わせても、中古のM2 Proを買った方がマシだったわけです。
まとめ
M3 Proは、シングルコア性能では確かな進化を見せましたが、プロフェッショナル向けモデルとしては中途半端な位置付けとなってしまいました。
プロセス進化の恩恵を十分に活かせていない点、コア構成の最適化が不十分な点など、設計上の課題が見られます。
この話はM3 Proチップのみの話で、無印M3やM3 Maxでは構成が変わらない増加しています。
そのため、他のM3チップではそこまでハズレとはいえない性能となっています。
最新のM4シリーズでは、これらの課題が解決されています。
というよりは、コア構成が戻ったとも言えますね。