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2020.10.28 wed.さよなら田中のおいさん

今日は田中のおいさんのお葬式だ。
でもコロナ禍なので家族葬なんだそうだ。
出棺のお見送りに、とも思ったが、思い出しながら送ろうと思う。

田中のおいさんは他の会社から移り、私より数年あとに入社してきた。

その当時入社してしばらく経っていたわたしは、周囲の才能に打ちのめされて黙りこんでいた。なんか投げやりに、かたくなになっていた。

田中のおいさんは常にふざけていた。ぎゃっはー!がははー!と電話していた。「おいこーの、おもんないのぅおまえ」といってだっはーと笑った。
最初はなんだこの人と思ったが、田中さんの「おもしろ」は真剣だった。

ひとはまともなことを言うたって聞きゃあへん
だったらどういう風に言うたら、聞いてもらえるんや?

日々の業務最中のバカ話がわたしの「おもしろ」を鍛えてくれた。
さらには飲みに行って飲んだくれて「おもしろ」から説教になった。

おまえのレゾンデートルはなんなんや?

酔っ払って座った目でそんなこと言われたってわかるかいな。
今だって考えてるけどようわからんよ。

まあとにかく酔っ払っての武勇伝数限りなく。

クライアントと飲みに行って二階から階段落ちし、救急車呼ばれて流血しながら「おつかれっした!」と運ばれて行ったり
キャンプで友人の犬連れて散歩に行ったっきり犬だけ帰ってきて、犬がこっちですと友人たちを連れて行くと溝に落ちていたり
ウインドサーフィンで牡蠣いかだに突っ込んで全身切り傷まみれになったり

休み明けにはよく包帯ぐるぐる巻きで出社してきてだんだん誰も驚かなくなった。今度はなにがあったんすか。

その度に、がっはー!もうすごかったんじゃけ!と面白おかしく話し、
「不死身のカズちゃん」と呼ばれていたのに。

いつだったか社長宅で鍋をつつき、たいがい酔っ払って田中のおいさんとチャリで全力疾走して帰ったことがあった。カーブを曲がりきれず真夜中の平和公園の生垣につっこみ、「なんしょんやこーの!がははは!」と大笑いし帰宅。明くる朝顔中擦り傷だらけで母親が絶句した。不死身は伝染する。

そんなおもろい田中のおっさんだが、ある女子大の広告にて
「白いノート」
という一連のコピーを書いた。
それを拝見して、この破天荒な人の中身の繊細な少女性を垣間見た気がした。どれがほんとの田中のおいさんかわからない。どれも田中のおいさんを構成する要素だったんだろう。わからないように酒で誤魔化してきたのかもしれない。

あるとき、田中のおいさんが酔っ払ってるのにいつになく真剣に私に向かってこう言った。

おまえはずばっと、初見で、人の恥部までずばっっと見破るじゃろうがい。
ぜぇんぶ丸裸にするじゃろうがい。
ほいで、どーーーーやったら、どーーーころがしたら、おもろなるかのーーーゆーて!考えるんじゃろうがい!
それがあんたのアレなんじゃろうがい、え?じゃろ!?
だったらやれ!すぐにやれ!

・・・えーと何をやれば?

知るか!とにかくやりんさい。いじょう!

それからわたしは広告の仕事を離れ、いつの間にかお茶屋を開いた。

最近は田中のおいさんと会う機会もめっきりなく、Facebookでなんかまたくだらんこと書いとんな、くらいに眺めていた。きっとあの調子で元気にやっとんじゃろ、くらいに思っていた。

「・・・・こーのさん?」
日曜日の朝、かつての同僚から電話をもらった。年賀状のやりとりはしていたけど声を聞くのは久しぶり。元気だったー!?
そして、田中のおいさんが危篤だということを知らされた。

今年に入って入退院を繰り返していたなんて知らなかった。
先週また倒れてICUに搬送されたがもう、最後のお別れの時間をと一般病棟に移ったのだと。

午後、行った。
意識なく眠っていた。
「たなかさん!こーのだよ! どしたん!?びっくりするじゃんか!」
と呼びかけると
ばっ!と目を開き、「おお・・・」と声が出た。
瞳は彷徨って像を結ばないようだが、人は最後まで聞こえるんだなと思った。帰りの駐車場の車の中で声をあげて泣いた。

火曜日の朝、昨夜天国に召されたと連絡があった。

早すぎるよ田中さん・・・

弔電を打とうと今年の年賀状をひっぱり出した。
そこには家族写真の横に
「助けてくれ!この個性をまとめあげるパワーがない。
もうカズちゃんのLIFEはゼロよ!」とあった。
田中さん・・・シャレになってないよ・・・・


最近、怒りにまかせて文を書くことが多かった。
釈然としない思いを、もやもやとわだかまっているものを言葉に、形にして自分で見て確かめたいと書いていた。

日曜日の朝、危篤の知らせを受けたとき

こーの、おまえ、出力の方向性が違うで

と田中さんの声で聞こえた。

ほんとそーだね田中さん。「おもしろ」が足らなすぎたよね。

この世の中、今年はほんとうに「おもしろ」が枯渇していて
もしそうじゃなかったら、もうちょっとがんばれたかもしれない人たちが
天に召されて行くんだよ・・・

荒野に一滴のおもしろを。滴滴とずっと。

みとってよ、極楽浄土でね!



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