新・空気を(が)読めぬ男 その1
時は幕末。慶応何年だか知らねぇが坂本龍馬が暗殺されたのが慶応3年11月15日(1867年12月10日)だから、いつだろう? まぁ、いいじゃんか、細かく書くと間違うかもしれねぇしさ。ピョンピョン(合いの手である)ときたもんだ。ああ、もしかしたら龍馬暗殺の実行犯の伊東甲子太郎、藤堂平助らを虐殺した油小路事件が慶応3年11月18日(1867年12月13日)だからさ、そのあとだね。まあ、テキトーでいいじゃん。あ、でもさ、翌年の正月には鳥羽伏見の戦いに入るから微妙な時期だよね。いつがいいかな? ま、冬だよ、寒い時期さ。慶応3年の暮れだよ。
その日、西本願寺の新撰組屯所では土方歳三が、いつものように癇癪を起して隊士たちに当たり散らしていた。
徳川慶喜が大政を奉還しちまってから薩長の動きが怪しい。天皇はまだガキだからあいつらの言いなりだろう。政権を渡しちまったらこっちが不利だ。いずれは薩長と戦うことになるだろうな。イヤだね、自分自身が死ぬのはイヤだが(だって痛いじゃん)他人を殺すのは快感だ。ああ、人殺してぇ~ってな感じで焦った土方は軽く発狂しているのである。何かにつけてとんでもない理由で隊士たちに切腹を迫り、逃げ出せばぶった斬るといった具合であった。今回は御殿医・松本良順から提案を受けて家畜とした豚が理由だった。
「お前ら、俺の断りなしに豚を食っただろう!」と叫ぶや隊士たちがあたっていた火鉢を抱え上げて障子にぶつけた。火が入っているから非常に危険だ。中の真っ赤に燃えた炭が部屋の中に散らばった。
「た、た、た、大変だ!」隊士たちが走って、ひっくり返った火鉢を戻したり、飛び出た炭を鉄の火ばさみで挟んで火鉢に戻した。
「ぎゃああっ!」土方が異様な叫び声をあげてバタバタと部屋の中を走り回った。土方は罪のない隊士たちを殺しすぎて、その隊士たちの亡霊に悩まされて精神に異常をきたしているのだった。
「うひゃあ!山南ぃっ、芹沢ぁっ、きぃ~ッ!!」
バタバタバタっと走り回っていたかと思うやピタリと停止して、隊士のひとりの胸ぐらを両手で掴んだ。
「貴様っ!食っただろう!」
「は、く、くい・・・食いました」
「うひゃあ、逃げろ!」他の隊士たちが屯所から逃げ出した。
「あ、待て!貴様ら!でぇいっ!」
「ぎゃあああ!」胸ぐらを掴まれていた隊士が土方に斬られた。
「うひゃあ!副長、乱心、乱心っ!」叫びながら部屋から駆け出てくる隊士たちを見た沖田総司が「土方さん、またやってるな、困ったもんだ」と呟いてため息をついた。
狂った土方が隊士部屋から走り出てくるのを右袖でおさえて「土方さん、そんなところで人殺しして遊んでないで、早くこっちに来てください。近藤さんが呼んでいますよ」
「総司か、お前も俺を祟るのか!」と叫ぶや刃を向けた。
「しようがねぇなぁ」沖田も刀を抜いた。
「じぇええええっ!」土方が沖田に斬りかかると、沖田は身を翻して峰打ちで土方の後頭部をぶっ叩いた。
「ったく、しようがねぇ人だ・・・」
「じょえっ!」叫ぶやその場に倒れて気を失った。
土方は、ダサいマーブル模様の渦巻き世界を飛んでいた。
「うひゃあ!あの世に逝くのか?やっぱ山南、芹沢の祟りだ!」
キュるキュるキュると土方の身体はマーブルの渦巻きに飲み込まれて消滅した。
次の瞬間、土方は見たことのない世界に落ちた。
ドッスーーーン!
そこは2024年の日本の女子高校だったのよね。
「げげ、侍のおっさんが落ちてきたわん。おっさん、死んでんのか?」神奈川県大和市の林間女子高校に通う早良夢子が空から落ちてきた土方の左頬をひっぱたいた。
「パッチーン!!」
つづく