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カルチャースクール「葛藤」
「うまくいかないね」
昨日は文章講座講師の日でした。
前回に出した課題(家族内の盗難騒動の話)作品を読むことを楽しみにしていましたが、生徒さんのひとりCさんは風邪でお休みで、もうひとりのBさんは「仕事が忙しくて」課題をやってきてくれませんでした(´。`)トホホ。Bさんは外食産業の厨房で働いているのです。
こうなると僕が前日まで必死に考えた「全員揃って完成する文章練習」もできなくなってしまうのです。困りましたね。今後は全員が揃わないという万が一のことを考えて課題を考えなければいけませんね。
でも、Aさん、おひとりだけ課題を提出してくれましたので、それを修正したものを転載しましょう。
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「イチゴケーキ」
田上家は高齢の夫婦のふたり暮らし。家の裏庭には小さな畑とビニールハウスを持っている。家庭菜園でも本格的なモノだ。夫婦で世話をしている。ビニールハウスにはイチゴランナー(苺のつる)が伸び始め、食べ主を待つかのように実が育ち始めていた。
田上家がこの地に家を建てた35年前は、家もまばらで、土の匂いが漂う田舎町だった。夜になれば僅かな街灯の明かりも頼りないもので、一人歩きに恐怖を感じるほどだったが、今は賑やかな商店街になっている。街には私鉄の駅もできただけでなく、駅からは複数のバス路線が走っており、交通の便も良くなった。それに合わせるように医療施設も整うなど住みやすい街になっている。
毎週末には隣町に住む息子夫婦が孫を連れて、老夫婦に会いに来る。田上家は幸福を絵に描いたような家族だった。
しかし、老夫婦の妻には不安なことがふたつあった。
ひとつは息子夫婦を迎える夫の笑顔の奥に潜む暗い過去のことである。夫は、ひとり息子の誕生におおいに喜び、子育てを楽しんでいたが、小学生になった息子に、突然として暴力をふるうようになったのだ。
「シツケだ!」と言って人が変わったような表情をして自分の息子を殴る夫に、恐怖を感じて母親である自分でも庇いきれぬこともままあった。愛する息子の将来への影響を心配したが、そんな不安をよそに息子は優しい大人に育った。しかし、そんな息子でも、いつか孫たちに暴力をふるうようになるかもしれないという一抹の不安を感じていたのだ。“暴力虐待は遺伝する”と聞いたことがあるからだ。
もう一つの不安は、息子夫婦が帰ったあとに、時々、モノがなくなることだった。
そのことを夫に話しても「お前、何か勘違いしているんだろう、ボケてきたんじゃないのか?」と言って取り合ってくれないことだ。しかし、息子だけは話を聞いてくれた。息子は「そう・・・」と言って何も言わなかった。
ある日のこと、息子がひとりだけで暗い表情をしてやって来た。両親を前にして息子は「ごめん」と言って頭を下げた。そして「盗んだのは僕だよ」と言った。目には涙が浮かんでいる。
母は「嘘でしょ?」と言うと、息子は「本当だよ」と言って目を伏せた。
「子どもが生まれて無邪気にはしゃぎまわるようになり、お父さんとお母さんの前でも自分を曝け出して遊んでいるのを見て・・・」目から涙が溢れている。母はティッシュペーパーで涙を拭いてやる。
「僕が子どもの頃に、お父さんから暴力を受けたことを思い出したんだ。記憶に刻まれていたお父さんの拳が蘇って、自分ももしかしたら子どもたちに暴力をふるうようになるんじゃないか・・・ってね」
息子の話では、自分の暴力的な危険な心を「モノを盗む」という行為によって抑えこんでいたというのだった。それを目撃した嫁が激怒して息子を問い詰めたところ、自分が子どもの頃に受けたことを話したところ、「辛かったのね」と理解してくれたという。嫁は「正直になったら・・・」と言うので、今日の告白に至ったというのだ。
父は「そうか、本当に申し訳なかった」と言って頭を下げた。
「俺はシツケのつもりでお前を殴っていたんだが、もしかしたら仕事のイライラのはけ口にしていたかもしれないな。俺も若かったから、殴られたお前の気持ちを考えていなかったな。でも、お前は大丈夫だ。俺と違って子どもたちに暴力をふるうことはないだろう。その証拠にあんなに明るく育っているじゃないか?」
息子の告白によって、息子自身の心の葛藤に光が見えてきたようだ。
「今度はビニールハウスのイチゴをみんなで摘んでイチゴケーキを作ろう。もうすぐお前の誕生日じゃないか」と父が言うと、息子は「うん」と頷いて笑った。
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テーマは「家族内盗難事件」でした。「意外性」にとらわれると、前回、僕が書いた文章のようにまとまりのないものになってしまいます。生徒さんは意外性にとらわれずに、わりと現実的なお話を書いてくれました。
それでも状況説明に欠けるモノになってしまうことが多いのです。いつ、どこで、誰が、何をしたのかという基本情報が入っていないことも多いのです。
肝心の内容も「昔、父親から虐待されていた息子が、自分の子どもに同じ事をするかもしれないといった精神的葛藤から、両親宅のモノを盗む」というお話はどうかな?と思ったのですが、虐待と盗癖というのは関連があるのでしょうか? ストレスからクレプトマニア(窃盗症)になるというのはあるようですね。それを最後に説明文として加えるのもいいかもしれませんね。
さて、残るふたりの作品、次回には提出されるのでしょうか? 課題内容が1回ズレたので、また工夫しなければいけません。
「次回課題のアイディア」
今考えているのは「文章スケッチ進行形」です。どういうものかというと、写真を数枚用意して生徒さんに1枚ずつ渡し、その写真に関するお話を考えてもらうのです。
例えば、以下に3枚の写真を用意します。1枚目は今戸神社、2枚目は亀戸、3枚目は保育園ですが、この1枚ずつに物語を作ってもらうのです。
![](https://assets.st-note.com/img/1682145696565-4lOEBCpPKZ.jpg?width=1200)
まず登場人物を設定します。写真には神社の晴れ着娘2人、車夫1人、中学生らしい女の子たち3人、タバコを吸う中年男、保母さんと多くの子どもたちが写っています。
全員を登場させると整理できませんので、たとえば、ここから晴れ着の女の子2人を主人公とします。年齢は19歳とします。2枚目のベンチに座る女の子3人のうち2人も中学生時代の2人です。それから3枚目の保育園の子どもたちの中にもこの2人がいるとします。
![](https://assets.st-note.com/img/1682145711724-TMQBFidoi1.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1682145768863-svd8SZc38Y.jpg?width=1200)
保育園から一緒という仲の良い女友だち2人のお話を作るのです。
生徒さんたちには、それぞれ保育園時代、中学生時代、19歳の現在の3つのお話を書いてもらいます。そして、それがうまくつながるように相談して面白い結末に結びつけてもらうのです。
これは次回講座時間内に行なうつもりですが・・・。
毎回、このように企画を考えて行くのですが、出席率と課題提出率が低いので、どうにもうまくいきませんね。