夢の風景「九龍地獄横丁」3
「その坂をのぼれば塔に行けるはずよ、きっとね。うふふふふ」
そう言ってリーディングガールズたちが笑います。
「黄泉がえりの坂よ」
「黄泉がえりの坂?」
「坂の上には温泉街があってね。そこには土産物屋があるのよ」
「土産物屋?」
「うん、何軒かあるのよ。その前にはお婆さんたちが店番をしているの。そのうちのひとりに塔への入り口は何処なのか聞けばいいのよ。うふふふふ」
「うふふふふふ・・・」リーディングガールズたちが揃って笑います。
「でもね・・・」
「間違った婆さんに聞いたら、また地獄横丁を彷徨うことになるのよ」
「それは難しいね。婆さんは何人いるんだい?」
「108人よ」
「それは無理だよ」
「間違えても108回目には辿り着けるじゃないの。ふふふふふ。それまでは生きられるんだからさ。間違えた方がラッキーなのよ」
「あ、婆さんにお土産にケーキを持っていた方がいいわよ」
「ケーキ?婆さんがそんなもの食うのかい?」
「最近の年寄りは脂っぽいのが好きなのよ」
「へぇ・・・ケーキはどこで買えばいいんだい。地獄横丁にそんな見せないだろう」
「ここに来る前に2階建ての建物があったでしょ?」
「え、2階建ての建物?」
「白い服の女たちがいっぱいいたでしょ?」
「ああ、あそこか?」
「あそこの女たちに聞けば、ケーキ屋がどこにあるのか、すぐにわかるわ」
「わかった」
また横丁を逆戻りだ。
あの建物に着いた。女性のひとりに聞いてみる。美人だ。
白の衣装でもひとりだけタイトなワンピースを着ている。彼女に聞いてみる。
「あの・・・」声をかけると女性が振り返った。
「突然で申し訳ないが、ケーキ屋を探しているんだ」
「ああ、スカンジナビアね。それならその路地に入って3分ほど歩けば右側に見えるわ」
「どうもありがとう」
「教えてあげたお礼にアタシにもケーキをもらってきてよ」地獄横丁は金は不要だ。対価を考える考えは不純なのだ。
「ああ、いいよ。戻ってきたら渡すから」
地獄横丁に新しい店もできているのは知っている。雨後のタケノコのこのようにニョキニョキと生えるようにできている。それらはみな、婆さんの書店を中心に派生しているにも見える。
ケーキ屋の前に着いた。
「何だこれは・・・」豚や犬や・・・人間の顔型のケーキがウインドウの中に並んでいる。
「気持ちが悪い・・・」
「お前、今なんて言った?」声がした。
見れば、若い女性が僕を睨んでいる。
「え?」
「気持ちが悪いとは何だ?」
「あ、気に触ったなら謝ります。申し訳ない」
「アタシの作るケーキは地獄大賞を獲ったくらい美味しいんだぞ。それを見た目だけで気持ちが悪いとはどういうことだ?」
「本当に申し訳ない」
「まあいい。お前、ケーキを買いに来たんだろう?」
「あ、はい。塔の途中のお婆さんへのお土産と・・・」
「白いネエチャンたちへの土産だろう?」
「ああ、はい」
「婆さんにはこの豚ケーキを持っていきな。ネエチャンたちには、このヒトガタケーキだ」
ケーキを両手に持って、白い服の女性たちがいるところまで戻ってきた。すると女性たちがいない。
「おーい!ケーキを持ってきましたよ!」
「うるさいね。あたしたちはここだよ」
声がする方を見ると、彼女たちは廃屋の上に張り付くように立っている。
「な、何で、そんなところに・・・」
「あたしたちのケーキはそこに置いていきな。そのまま土産のケーキを持って黄泉がえり坂をのぼっていきゃいいさ」
「ありがとう・・・」
「さて、108人の婆さんのところに行ってみるか・・・しかし、こんなんじゃ塔に行く着くのはいつになるかわからないな?」
つづく