見出し画像

湯島の夜 NHK少年ドラマシリーズ「蜃気楼博士」

*文中登場人物敬称略。

僕は1972年から1983年までNHKで放送されていた「少年ドラマシリーズ」が好きで、よく観ていました。中でも好きだったのが三浦半島を舞台にした「つぶやき岩の秘密」(11973年放送)で、だいぶ前にDVDも購入して保管しているのですが、押し入れの奥に入ってしまって出てきません。

新潮文庫版「つぶやき岩の秘密」新田次郎著

原作(1972年出版)は新田次郎さんで、戦時中に隠された日本軍の金塊をめぐる殺人事件に主人公の少年が巻き込まれるというお話です。ドラマも良いのですが、石川セリさんの「遠い海の記憶」が良いのです。

もうひとつ、主人公の学校の教師役が「好き!すき!魔女先生」の菊容子さんです。菊容子さんは女優として将来を嘱望された美しい女優さんでしたが、1975年に恋人に絞殺されてしまうのです。享年24歳でした。菊容子さんの将来は断たれてしまったのに、犯人の恋人は懲役7年という刑の軽さでした(個人的な印象です)。

少年ドラマシリーズというと、今ならば「ジュブナイルドラマ」ですね。大人たちの犯罪を少年の目線で描写していく面白いドラマばかりでした。有名なのは「タイムトラベラー(時をかける少女)」「七瀬ふたたび」などの筒井康隆作品に、「なぞの転校生」「夕ばえ作戦」「幕末未来人」など光瀬龍、眉村卓などのSF作家や、萩尾望都の「11人いる!」やあだち充の「泣き虫甲子園」(シリーズ最終作)などの漫画原作のドラマがズラリと揃っているのです。

秀作ばかりの同シリーズですが、そのほとんどがNHKには残っていないそうです。当時の撮影用ビデオテープは高価であり、放送終了した撮影テープの上から別な撮影を上書きしたのです。現在、DVD化されているものは奇跡的に残っていたり、関係者が録画していたものらしいです。

本の雑誌社版「都筑道夫 少年小説コレクション」

現在(6月20~22日)放送中の「蜃気楼博士」は、ドラマに出演した俳優さんが自宅でベータマックスに録画していたものだそうです。ちなみに僕もビデオ時代には頑固にベータでした。あ、嘘、ビデオ終焉時代の頃にはVHSでした(ToT)

さて、蜃気楼博士の原作は推理作家の都筑道夫です。少し内容を紹介してみましょう。ある日、アメリカ帰りの霊能力者(番組中では霊媒と称しています)峠原忠明が、こちらもアメリカで大活躍して「ドクター・ミラージュ」と称された大奇術師「蜃気楼博士」こと久保寺俊作に、峠原の守護霊による殺人実験の立会人となることを依頼されます。

しぶしぶ立会人となった久保寺は、知人の記者と記者の弟を同伴して峠原の事務所に出かけます。

峠原は、自分をクローゼットのなかに置かれた椅子に厳重に縛りつけさせて、目の前に印が書かれた短刀を置かせます。さらにクローゼットのドアに鍵をかけさせ、「守護霊が私から抜け出て遠くの人物を殺す」と言うのです。

はなからインチキ売名行為だと考える久保寺は彼の言葉を信じません。しかし、峠原の言う通りに遠く離れた場所で不動産屋が殺されてしまいます。しかも峠原が用意した印が書かれた短刀が凶器でした。

犯人は峠原の守護霊ですから峠原本人を殺人犯として逮捕できません。

さらに峠原は、再び“守護霊による殺人犯罪”を、久保寺を立会人として行なうのです。峠原は守護霊による殺人をどのようにして行なったのか?「蜃気楼博士・久保寺」対「霊媒殺人鬼・峠原」の戦いがはじまるのです。

という内容なのですが、僕は物語の後半まで真相がわかりませんでした。結末は意外なもので面白いですよ。それに久保寺の居間の壁紙が妖怪画(鳥山石燕?)だったり、変装用の手首とかマスクなど気味の悪いものが部屋中に飾られていたり、音楽が現代音楽だったり、雰囲気もバッチリです。

蜃気楼博士・久保寺には井上昭文(レインボーマンのダイバダッタ、ヤクザや時代劇の悪役をよく演じられていました)、霊媒殺人鬼に剣持伴紀(サンダーバードのアラン・トレーシーの声優だったり、必殺シリーズなどの時代劇の悪役、現代劇でも悪役が多いです。ウルトラセブン・ひとりぼっちの地球人や怪奇大作戦・人食い蛾、マイティジャックなどの特撮ドラマにも出演されています)と、配役的にも面白いのです。

現在では、少年ドラマシリーズのほとんどを観ることはできませんが、蜃気楼博士の概要を知っただけでも、傑作揃いだったことがおわかりになると思います。

何を言いたいのか? はい、昭和は良かったなんてことではなく、多くの人が貧乏だったし、詐欺師ばかりになってしまった現代のようにモラルもイカレテいないあの時代だからこそテレビドラマに映画に漫画と文化芸術すべてが素晴らしかったと言いたいのです。

いいなと思ったら応援しよう!