怪奇雑感
僕は怪奇映画が好きです。80年代にホラー映画と呼ばれ始めた頃から、純粋な怪奇な映画から、荒唐無稽な作品群に変化していくんです。
まず70年代には「エクソシスト」(ウィリアム・フリードキン)、「悪魔のいけにえ」(トビー・フーパー)、「ゾンビ」(ジョージ・A・ロメロ)、「キャリー」(ブライアン・デ・パルマ)、「ハロウィン」(ジョン・カーペンター)、「サスペリア」(ダリオ・アルジェント)、「オーメン」(リチャード・ドナー)、「ノスフェラトゥ」(ヴェルナー・ヘルツゥオーク)などがありました。
ノスフェラトゥは、イザベル・アジャーニが美しすぎる。ヘルツォークですからね。もう芸術です。おまけに音楽は、ドイツのプログレッシブロックの雄、フローリアン・フリッケ率いるポポルブーです。僕はサントラ盤も持っています。いいですよ。
1980年代に入ると「シャイニング」(スタンリー・キューブリック)という安っぽいスティーブン・キングの原作を芸術的に格上げさせた名作があり、以降、「白蛇伝説」「ゴシック」(ケン・ラッセル)、「遊星からの物体X」(ジョン・カーペンター)、「ゾンバイオ死霊のしたたり」(スチュワート・ゴードン)…おっと、これこれ。
ラブクラフトの「死体蘇生者ハーヴァード・ウエスト」が原作の「ゾンバイオ」大好きです。
有名なドタバタホラー「死霊のはらわた」(サム・ライミ)も当時は面白く感じましたね。ただ、続編が続いてハチャメチャになっていったのが残念でした。
「狼の血族」(ニール・ジョーダン)、「狼男アメリカン」(ジョン・ランディス)といった変身特殊メイクホラーも話題になりましたね。
「狼の血族」は、新宿でひとり暮らしをしているときに吉祥寺まで出かけてアーケードの中の小さな映画館で観ましたが、その時の印象が凄くよかったんです。内容は、赤ずきんちゃんのホラー版ですが、ホラーだけではない芸術生が感じられる作品でした。
「スペース・ヴァンパイア」「ポルターガイスト」(トビー・フーパー)、「ザ・フライ」「ヴィデオ・ドローム」(ディッビッド・クローネンヴァーグ)、「ヘル・レイザー」(クライブ・パーカー)、「チャイルド・プレイ」(トム・ホランド)、「ポゼッション」(アンディ・ズラウスキー)、「エルム街の悪夢」(ウェス・クレイヴン)、「13日の金曜日」(ショーン・S・カニンガム)、「キャット・ピープル」(ポール・シュレイダー)などが続々と登場し、特殊メイクや奇抜アイディアに特化した作品が多く作られるようになりました。
残念なのはゾンビ映画です。ヴードゥ教の呪術の産物という基本から抜け出てウイルス感染症のゾンビなんて恐ろしくも何ともないばかりかコメディにもならないような安っぽいCGを使ったZ級映画ばかりに成り下がってしまいました。
日本の怪奇映画もダメですね。中田秀夫の「女優霊」「リング」「リング2」、「リング0」(鶴田法男)などは、まだいいんですが、救いようのない地縛霊映画「呪怨」(清水崇)に至ると、もうこれは怪奇映画の害毒でしかありません。
それがまた新たに「村シリーズ」なんてバカなものをひねり出してきたのです。1作目は「犬鳴村」でした。これは主役の三吉彩花がいいだけで内容に関しては面白くも何ともない。その続編?なんでしょうね。「樹海村」を観ました。嫌いなモノでも観てしまうというのが僕のいいところです。
これがまた酷いんです。青木ヶ原の樹海で自殺した人間たちをバカにしているような印象です。バチが当たらないのでしょうか?これに比べれば、昔、朝の番組で毎年、青木ヶ原の樹海で自殺者捜索をしていた阿部祐二さんの方が格段に上級でした。もちろん死者への哀悼心も忘れていませんでしたね。
ただ、超暴力映画「ミスミソウ」が素晴らしかった山田杏奈が主演(山口まゆとのW主演)をつとめているのに、本当にもったいないのです。山口まゆも同様です。清水崇監督はホラーを作るのをやめていただきたいほどです。ホラー界の三池崇史って感じですね。
もうひとつ「さんかく窓の外側は夜」も観ました。
原作は、ヤマシタトモコさんの漫画です。『MAGAZINE BE×BOY』(リブレ)で、2013年4月号から2021年1月号まで連載されたものだそうです。
映画の方です。冒頭、平手友梨奈が通りがかりの北川景子に呪いをかけてバスに飛び込ませて殺すシーンが好きでして、「あ、これは面白そう」と思って観ていると…実は、そうではないんです。樹海村同様に残念な作品です。物語中には面白くなりそうな伏線があるのに、いずれも方向違いに向ってしまって、結局はつまらなくなってしまったのです。残念ですね。
もともとが男性同性愛(ボーイズラブ)ジャンルの漫画だそうで、そういえば岡田将生と志尊淳さんって“そんな感じ”です。時代の汎用さに驚きますが、それが時代であるならば仕方がないでしょう。それを知らない僕が、通してみた後になんだか奇妙な印象が残るのは、そのせいでしょうか。
先日、韓国の呪術ドラマ「謗法」を紹介しましたが、これは、なんだか“そんな感じ”です。平手さんがチョン・ジソのようだし、原作漫画を参考にしているとは思いませんが、何にしても韓国は取り込むのが上手ですよね。やっぱり脚本なのかなぁ?
あ、忘れていました。いいのがあります。飯豊まりえ主演の「シライサン」が良かったですね。監督は小説家の乙一さんです。原作者が作るモノですから駄作はありませんね。
日本のホラーと言えば、黒沢清監督でしょう。「ドレミファ娘の血は騒ぐ」いいですよね。「地獄の警備員」「回路」「ロフト」「叫」「散歩する侵略者」…すべて素晴らしい。特にテレビドラマ「降霊」が凄く怖かった。
黒沢清監督と少し作風が似ている(個人の意見です)「下妻物語」の中島哲也監督の「来る」もよかった。ありとあらゆる呪法を駆使して除霊する映像美…素晴らしかった。内容的に救いようがないのは嫌いだけれど、このくらい救いようがないと諦めもつきます。同監督の作品はいずれも芸術ですからね。これは原作もいいのかな?未読です。
忘れていました、菅野美穂は90年代に頑張っていました。伊藤潤二原作の「富江」と「催眠」に主演してそのホラー女優としての才能を開花させていました。
伊藤潤二原作の「うずまき」も傑作でした。
沢尻エリカのホラー「オトシモノ」これもいいですよ。これは私の自宅付近の駅で撮影された作品です。
最後にもう1作。60年代ですからもう古典ですが、東宝特撮の中で作られた「マタンゴ」「血を吸う薔薇」「血を吸う人形」もいいですよ。ちなみにマタンゴは原案が僕の姻戚にあたる星新一と福島正実のふたりです。
あら?いつの間にかホラー映画大会になってしまいました。申し訳ありません。
それでは、また…。