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「血」
仕事場に向って急いでいると小さな十字路があった。
見れば警官が数人道路にしゃがみ込んで何かを調べている。
そのなかのひとりの警官に「なにかあったんですか?」と聞いてみる。
「交通事故です。あ、あちこちに血だまりがあるので気をつけて歩いてください」
「あ、はい」
見れば十字路の中央周辺に大小の赤黒い血だまりができている。
血を踏まないように注意して歩いて仕事場に向った。
しばらく歩いていると足元から「痛い」「痛い」という声が聞こえた。
気のせいだろうと仕事場に着いて仕事にかかる。
夜になった。
行きと同じ道を通る。
あの十字路近くに来ると、足が軽くなった。
足が勝手に十字路に向って歩いている気がした。
十字路が見えた。勝手に急ぎ足になる。
「何だ?」不思議に思いながら勝手に動く足に任せて歩いた。
十字路に着いた。
「私の血を踏んじゃだめじゃないの」女性の声がした。
声がするのは僕の靴の下からだ。
見れば地面から20代と思われる女性の顔だけが見えている。
彼女は血だらけで顔の形も不完全だ。
「あ、あなたは事故に遭ったのですか?」
「そうだよ、とにかく私の血を踏まないで」と怒っている。
「ごめんなさい」
「私の血を踏んだ靴を置いていけ」
「は?」
「とにかく靴を置いていけ。さもないと祟るぞ」
仕方がない。血を踏んだ右足の靴を十字路の真ん中に置いて帰宅した。
翌日、その十字路を通ったが、僕の靴はなくなっていた。
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