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シルバー人材日記「11月Ⅰ日の不運」2

「医師たちは、死んじゃう洗脳で責任回避を図る」

妹の持ち物を全て確認しました。
「妹さんのかばんは2つ、スマートフォンも2つありますが、こちらでは勝手にかばんを開けたりスマートフォンを操作したりしていません。ご確認のうえ、よろしければこちらにサインをお願いします」
かみさんがサインをしました。
妹の衣服と下着と靴、時計、かばん2つにスマートフォン2つが大きな白い紙袋に入れられていました。
(倒れた際に着ていた衣服はわかるが、かばんは? ああ、救急車で運ばれる際に、先ほどの妹の同僚女性が、気を利かして持って来てくれたのだろう)
「それでは、担当医師が妹さんの病状について説明に参りますので、しばらくお待ち下さい」
看護師が出て行くと、またしばらくして、眼鏡をかけた性格のきつそうな感じの女性が入ってきました。どうやら医師のようです。
「こちらへいらしてください」と言われるままに僕とかみさんは家族待機所を出ました。するとガラガラと大きな音がして、数人の看護師が、すごく大きなストレッチャー(って言うのかな?病院内で色々な機器を付けて異動する奴です)を支えて目の前に停めました。見ればボサボサの髪をした老婆の死体のような(申し訳ない、本当にそんな感じなんです)女性が、布団にへばりついているように眠っています。よく見ると僕の妹のようです。

妹の顔は、2015年に死んだ母親と同じような顔をしていました。不吉な表現ですが、妹は布団の上で死んだように眠っていました。もの凄い衝撃が僕の全身を走りました。ビリビリと感電したような感じです。
「これから妹さんを6階のEICUに搬送して手術に入りますので、その前に妹さんと会ってあげてください」
「はあ・・・」
「手に触れてあげて下さい」
「はい・・・」
(つーか、おいおい、妹が死んだような感じで言うんじゃねぇよ)気を利かしてくれているのでしょうが、何だか腹が立ちました。妹の手に触れると死人のように冷たかったのです。(妹は死ぬのか?)って思いました。かみさんは横で泣いています。(おいおい、やっぱし、妹は死ぬのかよ?)この雰囲気!フザケルナ!って感じです。葬式じゃないんだ、妹は、これから手術してずうっと生き続けるんだぞ!僕なんかよりずうっと長生きするんだ。

「じゃあ、こちらの部屋で妹さんの病状について説明いたします」

妹を載せた大型ストレッチャーがエレベーターに入り、ドアが閉まります。(死ぬなよ!)と祈ります。声に出さずに知っている非化学的な呪文を唱えました。「ひとふたみーよーいつむーななやーここのたり、ふるべゆらゆらとふるべ」フザケテなんかいません、超真面目です。

医師に促されるままに案内された部屋に入りました。
「妹さんは“くも膜下出血”です。くも膜下出血というのは3人にひとりが死んじゃう恐ろしい病気です。発見が遅れれば高い確率で死んじゃうんです」
(こいつ、人ごとだと思って、医師だからってさ、上から目線で、人の家族を軽々しく死んじゃう扱いするんじゃねぇよ)
「妹さんは搬送時にお話しできていましたし、手術内容の説明も聞いていらっしゃいましたので、その様子から、くも膜下出血でも軽度かと思われましたが、これは手術してみないとわかりません。何しろ恐ろしい病気で高確率で死んじゃうんです」
(この野郎!患者の家族に対してこの物言い・・・あ、もしかしたら自分たちがこれから手術して、最悪、妹が死んじゃうかもしれないときに、自分たちの医療ミスだと疑われないように事前に“死んじゃうのは当たり前洗脳”を僕たちにしているのかもしれない。いや、きっとそうだ、こいつらは妹を救ってくれるかもしれないが、殺してしまうかもしれない・・・神になるか、死神になるか・・・)僕は絶対に死んじゃう洗脳されないぞ、妹は死なないんだ、自分に言い聞かせました。
「妹さんは脳血管の・・・ちょうど左目の裏側に瘤があって、そこから出血したと思われます。再出血したら必ず死んじゃいます。ですから、これからその瘤に細い金属(チタン)の糸をコイル状に巻き入れて瘤内に血液が流れないようにします。手術中に出血する場合もありますし、出血した血液の破片が血管内で詰まって梗塞を起したら、脳梗塞で死んじゃうんです」

(この野郎!いい加減にしろ!患者の家族に死んじゃう、死んじゃうって言うのはどうなのよ? やっぱし死んじゃう洗脳しようとして自分たちの責任回避をしているんだな?)

◆疲れたので、今日はもうこの辺でやめておきます。現時点の状況だけ書いておきます。

「脳内に瘤がふたつあって、どちらから出血したのかわからないので、瘤ふたつにチタン糸を巻き入れて出血を抑えました。生命の危機は回避できましたが、手術の際に血の塊がいくつか飛び、数カ所に小さな梗塞ができました。梗塞というのは梗塞を起した部分の脳が死ぬということで、二度と活動しません。そのために血液が固まらない薬液を入れて梗塞が再発しないようにしています。今後は数週間、ひとつきはEICUで経過観察を行なうそうです。

昨日、妹に面会した際には、血が通った生き返った顔をしていました。多少の意識混濁はあるかもしれませんが、僕とかみさんを意識して声には出さないものの、僕の問いかけに頷いて返事をしていました」

つづく

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