「宣告」
2014年まで神奈川に住む母の定期検診について行っていた。
その数年前に母が脳梗塞になってから、少し呂律が回らなくなったので、その病院で言語リハビリ治療を行なっていて、ついでに血圧やコレステロールなどの健康面も診てもらっていた。その甲斐あって母は普通に話せるようになっていて、肉体的にも元気になっており、翌年には白内障の手術をする予約もしていた。
その年の11月に、いつものように定期検診について行った。血圧やコレステロールは正常だった。咳が出ていたので、念のためにレントゲンを撮ってみようということになった。結果が出るまで待っていると「アタシ、何か異常があるのかい?」と不安な表情で聞くので「たいしたことはないよ。咳が出るのはただの風邪だろう。もうすぐわかるから」と答えた。
レントゲンの結果が出たというので、母と診察室に入ろうとすると「お母さんは外で待っていて下さい」と看護師が母を待合室に連れて行った。「変だな」と思いながら診察室に入ると医師は僕にレントゲン写真を見せて「お母さんは肺がんのようです」と言った。
「え、そうなんですか。じゃあ手術するんですか?」と言うと、医師は「がんは肺の奥の手術できない部分に癒着しているようです」と言う。
「じゃあ、どうなるんですか?」と聞くと「余命3ヶ月というところでしょうか…私は専門医ではないので、隣町の総合病院に紹介状を書きますから、そちらで詳しく診てもらってください」と答えた。
ため息しか出なかった。定期検診に来て死の宣告とはどういうことだろう。本来は命を助ける神であるはずの医師が死神に見えた。
それから紆余曲折があって、結局、脳梗塞を治療した総合病院に母を入院させたが、医師の余命宣告より早く、母は入院から2ヶ月で死んでしまった。