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宇宙の匂い 1

吉村朔太郎は、規模の小さな建設会社の営業課長だ。年齢は45歳。5歳年下の妻・禮子(れいこ)と8歳の娘・夏音(かのん)がいる。

吉村はその日、千葉県にある会社から茨城県つくば市まで社用車で営業に出かけ、帰宅の途についたのは午後7時を過ぎていた。吉村は、先月から休日返上で、お得意さん回りをしていた。長引く不景気は、建設業にもかなり影響が出ていた。

お得意さんは筑波山の麓の北条にあり、山沿いに土浦に向って暫く車を走らせると突然睡魔に襲われた。それだけではなく道を間違えたようでいつまでたっても筑波山が左側に見えていた。

「おかしいな…疲れているんだろう。仕方がない。コンビニの駐車場でしばらく休ませてもらおう」

目の前にコンビニが見えた。

吉村はコンビニの駐車場に車を入れると、端の空きスペースに車を停めた。それからコンビニに入り、握り飯2つとペットボトルのお茶を買うと、店員に「疲れたので少しの間駐車場で休ませてほしい」と言った。店員は笑って頷いた。

ポケットからスマートフォンを取り出して妻の禮子に電話をかけた。禮子の声が聞こえた。

「あ、俺だ。茨城まで営業に来たんだけれど、県境で眠くなっちゃってさ、コンビニの駐車場で少し休んでから帰ってもいいかな」

「うん、居眠り運転で事故でも起こされたらたまらないかんね。ちょっと寝てきなよ。ご飯は食べた?」

「いや、帰ってから食べるよ。起きたらすぐに帰るから。ところで今日は…」

「カレーよ」

「いいね」

「大好物だもんね」

「うん。カレーは温め直さなくていいよ。インスタントリサーチ…だっけ?」

「レジスタントスターチだよ」

「そうそう、それな。ご飯も冷えた奴を頼むよ」

「冷蔵庫に昨日残ったご飯があるから」

「うん、頼むね。夏音は?」

「ここにいるよ。夏音、ほれ」

「パパぁ」

「おう、夏音、パパは少し遅くなるからママと寝ててね」

「うん、早く帰ってきてね」

「じゃね、おやすみ。あ、帰るときに電話してね」

「ああ、わかった。お前も気をつけてね。家の中だって何が起きるかわからないんだから」

「うん」電話を切った。

その時だった。コンビニの遙か上空から光が差した。それは強烈で幽玄な光だった。

「何だろう?」

光は徐々に大きくなって、光の正体が見えた。50メートルはあるだろうか?いや、もっと大きいかもしれない。それは大きな円形の飛行体だった。

「空飛ぶ円盤?」

飛行体の下部中心から真っ赤な光が照射された。眩しいなんてものじゃない。強烈な深紅の光線が吉村の目から侵入してきた。吉村はそのまま気を失った。

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